#2「竜翼」

#2「竜翼~りゅうのつばさ~」1

「ただいま、フォー」

「フォー!」

カイトが家に辿り着くと、真っ先にフォーが迎え入れてくれた。

「ごめんな、フォー。あんまり構ってやれなくて・・・学園祭が終わったら遊ぼうな」

「フォー♪」

カイトは、今まで構ってやれなかった分、フォーとじゃれあった。

・・・・・・。

「ただいま」

「おかえり、カイト。もうすぐご飯だから手を洗って着替えてきなさいね」

「はーい」

カイトは、急いで洗面所で手を洗って、自分の部屋に戻って着替えた。

・・・・・・。

「いただきまーす」

夕飯はシチューだった。

「学園祭の準備は上手くいってるの?」

「うーん・・・ギリギリかなぁ・・・?」

「明日も早いから、早く寝なさいね」

「はーい」

何気ない会話・・・どこの家にもある風景だった。

・・・・・・。

・・・。

カチャ。

「さて・・・」

風呂から上がり、自分の部屋に戻ったカイトはゆっくりベッドに腰掛けた。

「・・・・・・」

ふと、カイトは今日会ったミナギの事を考えた。

ミナギの命を救った、大切な人への強い思い・・・自分と同い年のはずなのに・・・

誰よりも強い意志を持ってる・・・

とても、自分なんかじゃ決してマネ出来ない・・・強い思い・・・

絶対に、会えるといいな・・・ミナギの大切な人・・・

「・・・・・・」

と、カイトは話をしてる途中で、心の中の引っ掛かりが気になっていた。

「ミナギかぁ・・・」

ふと、カイトはミナギの名前を何度となく言ってみた・・・

幾度となく心に引っかかるような感じ・・・

いつの間にかカイトは、小さい頃に一緒に遊んだ事のある女の子と影を重ねていた・・・。

「・・・そんなわけないか。ミナギとは初めて会ったんだし・・・」

そう考えてる途中で、カイトは段々と睡魔に襲われてきたので、明かりを消して布団に潜った。

「おやすみ・・・」

辺りは静寂に包まれた。

・・・・・・・・・。

・・・。

(・・・・・・に・・・・・・い・・・)

(・・・・・・の・・・に・・・おい・・・・・・で)

「・・・・・・」

(・・・・・・たし・・・の・・・とこ・・・・・・おいで・・・)

「・・・・・・」

(・・・たし・・・の・・・ところ・・・に・・・)

「・・・・・・うう・・・」

(・・・わたしの・・・ところ・・・に・・・)

「!?」

誰かが呼んでる・・・?

意識が遠くなりかけて不意に目が覚めた。

「はぁ・・・はぁ・・・」

久しぶりの不快な感覚だった。

「う・・・げほっ、げほっ」

カイトは胸を押さえながら、リュックから薬を取り出して一粒飲んだ。

「はぁ・・・はぁ・・・」

辺りはまだ薄暗くまだ夜は明けていなかった・・・。

「あれから一週間か・・・何とか保った方かな・・・?」

カイトは胸が苦しくなったら薬を飲む、そんな生活をあの日から続けていた。

そう・・・あの日から・・・・・・。

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#2「竜翼~りゅうのつばさ~」2

・・・・・・。

「おはよ、母さん」

「おはよう、カイト」

焼きたてのパンの匂い・・・いつもの朝、カイトは心の中でほっとした。

「・・・カイト」

「ん、何?・・・母さん・・・」

不意に母さんが話し掛けてきた。

「少し顔色が悪いみたいね・・・大丈夫?」

「え??・・・そう?・・・ちょっとだけ眠れなかっただけだから・・・大丈夫だって」

やっぱり母親である。

挨拶の時は気付かれないようにと、平然としていたのに・・・。

「学園祭の準備で大変なのね・・・今日は休んだらどう?」

母はカイトに優しく言った。

「大丈夫だって。もうすぐ学園祭始まるんだし・・・疲れてるってもちょっとだけだから」

カイトは、笑って誤魔化した。

・・・・・・。

「んじゃ、母さん行ってきます」

「カイト、本当に大丈夫なの?」

「だ、大丈夫だって、じゃっ」

母はまだ心配そうな顔をしていたが、昨日は準備に行ってなく、さすがに今日も休む訳にはいかなかった。

あまり母親の目を見てると引き止められそうだったので早々と玄関を出た。

「じゃっ、フォー行って来るから」

「フォー・・・?」

「え?どうしたの、フォー・・?俺の顔に何か付いてるの?」

カイトがフォーの顔を見ると、とても悲しそうな顔をしていた。

「どうしたんだよフォー、そんな顔で俺を見て・・・」

「フォー・・・」

フォーはそれでも悲しい表情でカイトを見ていた。

「・・・もう時間が無いから行くよ、もう・・・って、フォー?」

フォーは、カイトの持ってるカバンを口で咥えて引き戻そうとしていた。

「フォー、何をしてるの、フォー、放せって、フォー」

フォーは、決して放そうとしなかった。

よく見ると、フォーはとても心配そうな顔をしていた。

何で、お前もそんな顔で・・・見るの?

どうして・・・?

俺に行くなって事・・・なのか??

「フォー・・・お前・・・」

フォーはカバンを咥えながら首を横に振っていた。

「フォー・・・俺は大丈夫だから、帰ったら遊ぼうな」

カイトは、心配してるフォーを落ち着かせるように頭を撫でながら話した。

「フォーゥ・・・」

ようやく咥えていたカバンを放してくれたが、フォーはまだ心配そうな顔をしていた。

(フォーまで・・・そんなに俺の顔色が悪いのかな・・・?)

カイトは、息が整わないままで、少し早足で学校に向かった。

途中、挨拶を交わしたときの親戚の表情を気にしながら・・・。

・・・・・・。

カイトは、少しふらつきながらようやく教室に入った。

「おはよ、シンジ。昨日はごめんな」

「カイト、昨日はどうし・・・」

「え・・・?」

カイトの顔を見た友人達の表情が変わった。

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#2「竜翼~りゅうのつばさ~」3

「・・・カイト、お前・・・どうしたんだよ?・・・凄く顔色が悪いよ」

まるで、変わり果てたものを見たかのように友人達を始め、クラスの皆が驚いていた。

「皆、そんなに驚かなくても・・・あはは」

「あはは・・・じゃないだろうよ、カイト・・・」

カイトはいつも通りを装っていたが、友人達は気が気でないらしい・・・。

「よく、そんな状態で学校に来れたなぁ・・・」

「無理しないで今日はもう帰った方がいいって」

「でも・・・学園祭の準備が・・・」

「そんなのは俺達で先に進めておくから・・・今日はいいって」

「カイト君、先生には私達が休むって言うから・・・」

カイトは、クラスの皆にそう促されて家に帰る事にした。

「・・・うん、分かったよ。先生によろしく伝えてよ・・・」

「おう。今、無理して本番でダメになったらシャレにならないしな」

どうやら、自分が思ってる以上に顔色が悪いらしい・・・。

「また明日」

「家まで送ってくよ」

シンジはそうカイトに言うと、カイトは「いや、大丈夫だから」と断った。

カイトは不安定な足取りで教室を後にした。

「さっきまでは平気だったのになぁ・・・」

今朝見た夢が原因なのは間違いなかった。

でも・・・たかが夢で、ここまで・・・・・・。

・・・・・・・・・。

重い足取りでカイトは何とか家に辿り着いた。

「・・・ただいま、フォー・・・」

「フォー!」

フォーはカイトのその変わり果てた姿を見て、涙目でカイトの側に寄り添った。

「フォー、こめんな。お前の言うとおり行かない方が良かったよ・・・」

カイトは、泣きそうなフォーの頭を優しく撫でた。

それに答えるかのように、フォーはカイトの頬に顔を寄せた。

「ありがと、フォー・・・」

カイトは、少しだけ元気になれた・・・そんな気がした。

・・・・・・。

「ただいま、母さん」

「おかえり、カイト。大丈夫なの?」

「うん・・・あんまし良くないみたい・・・やっぱし母さんの言うとおり休んだ方が良かったかも・・・」

「今、部屋の布団を敷き直すから居間で待ってなさいね」

「うん・・・」

母親は、カイトの部屋に向かった。

・・・・・・・・・。

コンコン。

「・・・入っていいよ、母さん」

カチャ。

「調子はどうなの?・・・カイト」

「うん、今朝に比べたら大分楽になったよ・・・」

母親は持ってきた昼食を机に置いて、カイトのおでこに手を当てた。

「今朝に比べて顔色も良くなったし、熱も無いみたいだし大丈夫だと思うけど・・・無理しないのよ」

「うん・・・」

カイトは母親の言うとおり、もう少し大人しくしようと思った。

母親の作ってくれた昼食を机に座って食べた。

昼食は食べやすい雑炊だった。

・・・・・・。

やがて、カイトは軽くなった体を起こして、普段着に着替えてから外に出かける準備をした。

「行ってきます、母さん」

「体は大丈夫なの?カイト」

「うん、今は平気。ちょっと、外の空気を吸ってこようかなって・・・」

「無理はしちゃだめよ」

「うん、分かってる」

カイトのそんな姿を見て少しだけ安心したのか、居間の方にゆっくり戻っていった。

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#2「竜翼~りゅうのつばさ~」4

・・・・・・。

パタン。

「フォー、行こう」

「フォー!」

カイトの少しだけ元気を戻した顔を見たフォーは、どこか安心したような表情で見ていた。

カイトは普段より遅めに歩き始めた。

・・・・・・。

・・・。

バサッ、バサッ・・・。

一瞬だけ風を切った。

「フォー!」

大きく翼を広げ、フォーは空の起動に乗った。

「今日はゆっくり行こう、フォー!」

「フォー♪」

フォーは、少しずつ速度を落としていった。

カイトは学園祭の準備であまりフォーの相手を出来なかったので、こんな時間も悪くないと思った。

こうして、フォーと一緒に出掛けるのも久しぶりだった。

・・・・・・・・・。

家路を抜けて、商店街をしばらく歩くと、いつもの通学路に出た。

「もう少し・・・かな?」

カイトとフォーが、行く場所は大体決まっていた。

「・・・あれ?」

向こうの道から、女の子が歩いてきた。

姿がはっきりするにつれて誰なのかはっきりと分かった・・・・・・ミナギだった。

「ミナギー!」

「カイト・・・?」

カイトに呼ばれて、ミナギは嬉しそうに近寄った。

「ミナギは、今日は何してたの?」

「私は隣町まで買い物だよ」

ミナギの手元を見ると、小さな袋を持っていた。

「隣町までわざわざ・・・この町じゃ売ってなかったんだ・・・?」

「うん、どこの店に行っても置いてなくて・・・色々お店の人に聞いたら隣町にあるって・・・」

この町は、隣町に比べても遥かに大きく、他の町から買い出しに来る人が多い程なのに・・・

この町で手に入らない物・・・一体、何だろう?

カイトは気になったが、何だか聞いてはいけないような気がした・・・。

「カイト、学校は?・・・今日は休みなの?」

ミナギはふと、思った事をカイトに訊ねた。

「うん・・・行った事は行ったんだけど・・・」

「・・・?」

「今朝、クラスの皆に凄く顔色が悪いって言われて、今日はいいって言われてすぐに早退しちゃって・・・」

「え!?」

カイトがそう話して、ミナギははっとカイトの顔をじっと見た。

「本当・・・昨日よりも大分顔色が悪いよ・・・」

カイトの顔を見て、ミナギは表情が少し曇った。

「はは・・・やっぱしミナギにもそう見えるんだね・・・」

「本当に大丈夫なの?・・・カイト」

ミナギは心配そうに訊ねた。

「さっきまで寝ていたから・・・朝よりは大分楽になったよ」

「そう、ならいいんだけど・・・」

カイトにそう言われて、ミナギは少しだけほっとした感じだった。

「こうしてフォーと散歩に出掛けるのもいいかなって思って・・・」

「フォー・・・?」

ミナギは、一瞬カイトしかいないのに誰の事を言ってるのかと思い、少しだけきょとんとした。

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#2「竜翼~りゅうのつばさ~」5

「あっ、そっか・・・ミナギにまだ紹介してなかったっけ・・・」

カイトは空を見上げた。

大きく息を吸って・・・

「フォー、ここに降りてきて!」

カイトがそう空に向かって叫ぶと、フォーがゆっくりと二人の目の前に降りてきた。

「フォー」

「わぁ・・・」

ミナギは、少し背の高いフォーを見て少しだけ驚いているようだった。

「紹介するよ。ドラゴンのフォーだよ、フォー、俺の友達のミナギだよ」

そうカイトに言われて、フォーはそっとミナギを見つめた。

「フォー」

「・・・・・・・・・」

ミナギは少し緊張してるのか、フォーの顔を見て固まっているようだった。

「大丈夫だよ、ミナギ。フォーの頭をそっと撫でてみて」

カイトはミナギの緊張を解くようにフォーの頬を撫でてみた。

「フォー♪」

ミナギは、そんなカイトとフォーの様子を見てちょっとだけ安心したようだった。

「・・・うん」

ミナギはフォーを見つめた。

フォーの優しい瞳に、心を許すように頭を優しく撫でてみた。

「フォー♪」

フォーも、ミナギの優しさを受け取るように笑顔で交わした。

「えへ、よろしくねフォーちゃん」

カイトは、ミナギとフォーの穏やかなやり取りを見てほっとした。

「ミナギはこれからどうするの?」

カイトはふと、ミナギに訊ねた。

「私はもう用事は済ませたから、特に予定は・・・」

「じゃ、今から一緒に行かない?いつもフォーと一緒に場所があるんだ」

カイトは、ミナギに話を持ち掛けた。

「うん、いいよ。フォーちゃんの事、もっと知りたいし」

「それじゃ、決まりだね。フォー、行こう」

「フォー♪」

フォーはゆっくり翼を広げて、やがて空に向かって飛んだ。

「行こうか?ミナギ・・・」

「うんっ」

カイトとミナギはゆっくり歩き出した。

「ねぇ、カイト・・・」

「ん?何、ミナギ・・・」

「カイトとフォーちゃんがいつも行ってる場所って・・・遠いの?」

「えっとね・・・もう少しかな・・・?」

カイトとミナギはゆっくりとフォーの後を追った。

・・・・・・・・・。

・・・。

「さぁ、着いたよ」

「うわぁー・・・」

着いた場所は、どこまで行っても果てが無いかのような・・・

なだらかな斜面のある草原だった。

「この町に、こんな場所があったんだ・・・」

ミナギはただ、辺りを見回していた。

「ミナギ、ほら、あそこに見えるのが俺が通ってる学校だよ」

カイトの指差す方向には、手の中にすっぽりと納まりそうな程に小さく写る学校の建物があった。

「凄くいい眺めだね・・・」

ミナギは圧倒されそうな風景に思わず見惚れていた。

カイトは、静かに息を吸って吐いていた・・・。

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#2「竜翼~りゅうのつばさ~」6

・・・・・・・・・。

「フォー♪」

心地よい風が吹いていた。

カイトとミナギは草原に座って、フォーの飛んでる姿を見ていた。

「フォーちゃん、何だかとっても楽しそう」

「学園祭の準備が忙しくて、フォーの事本当に構ってやれなくて、学園祭が終わったら思い切りフォーと遊ぼうと思って・・・でも、今日学校を休んでしまったから・・・」

カイトは、フォーを遠くから見ながらミナギに話した。

「でも、カイトが休んだおかげで今日、こうしてカイトとフォーちゃんと一緒にいられるから・・・私は良かったかな・・・?」

ミナギは、ぽんっと立ち上がってカイトの方を見た。

「あはは・・・朝、学校でクラスの皆が血相を変えて休んだ方がいいって言われた人間があまりこうして外に出てるのもおかしいけどね・・・」

カイトは、少しだけ苦笑いしながらミナギに話した。

「あ・・・カイト、体の方は本当に大丈夫なの?」

ミナギはまた心配そうな顔をして聞いた。

「まぁ、何とか。あんまし万全な状態じゃないけど・・・何だか外に出たくって・・・」

「ふふ、気持ちは分かるよ、だって・・・私も昔、病室にずっといるのが嫌でいつも外に出ていたから」

「はは、ミナギもなんだ・・・」

しばらく吹いていた風が止んだ。

「ねぇ、カイト」

「何?ミナギ・・・」

「フォーちゃんとはいつ出会ったの?」

ミナギはふと、気になった事をカイトに聞いた。

「出会い・・・かぁ・・・・・・」

カイトは、ゆっくり立ち上がって静かに息を吸った。

「・・・ふぅ」

カイトは、静かに息を吐いて空を飛んでいるフォーを見上げた。

「俺が中学一年の時かな・・・?」

カイトはゆっくりと歩き始め、少しずつ思い出すように話し始めた。

ミナギもその後をついて行く。

・・・少しだけ歩いた所で、カイトは立ち止まった。

「授業が終わって、ちょっとこの辺りかな・・・血みたいのが飛び散ってて・・・」

「え・・・?」

ミナギは、カイトの言葉に一瞬、驚いた。

「何だろうと思って、跡を追ってみたんだ・・・そしたら、今より半分以下の大きさだったフォーが血だらけここに横たわっていたんだ・・・」

「・・・・・・」

ミナギは、カイトの言葉に凍り付いたように表情が固まった。

「今すぐ、助けないと大変だって思って近寄ったんだ。・・・そしたら、フォー・・・凄く怯えていて、俺がフォーの側に行く程に警戒の目で俺を見始めて・・・その時に、フォーは人間に襲われたんだって思って・・・」

「フォーちゃんに・・・そんな事があったなんて・・・」

ミナギは、少し心を痛めてるようだった・・・。

「早く手当てをしないと死んじゃうって思って、フォーを抱き上げて町の方へ走ったんだ。

・・・フォーは凄く嫌がってたけど・・・」

「誰がフォーちゃんを襲ったの・・・?」

カイトは何も言わずに、静かに首を横に振った。

「可哀相だよ・・・いくら何でも、そんなの・・・」

「・・・・・・」

カイトは、泣きそうになっていたミナギの頭をそっと撫でた。

「・・・・・・」

カイトは静かに目を閉じ、少しずつ過去を追ってゆくように再び話し始めた。

「町に辿り着いて、手当たり次第病院に行ったんだけど・・・」

「・・・だけど?」

「どこに行っても・・・その子はもう助からないよって・・・相手にもしてくれなくて・・・」

カイトはあの時の事を思い出し、少しだけ怒り混じりに話した。

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#2「竜翼~りゅうのつばさ~」7

「何か・・・酷い話だよ」

ミナギは、あまりの辛い話に涙目の顔を少し伏せた。

「それで、途方に暮れた時にあの人にお願・・・」

「・・・?」

カイトは途中で言いかけて止めた。

「カイト、どうしたの?急に話を止めちゃって・・・」

「あ・・・いや、知り合いのお医者さんに泣きながら頼んで・・・それでようやく見てもらったんだ・・・」

「良かったよ・・・そのお医者さんがいなかったら、フォーちゃんが・・・」

ミナギは、また泣き出しそうになっていた。

「その・・・ごめん、ミナギ。ちょっとこの話は辛すぎるかな・・・?」

カイトは、ミナギのそんな姿を見て急に我に返った。

「ううん、カイトとフォーちゃんの事、もっと知りたいから・・・いいよ、続き話しても」

「あ・・・うん。それで何とか助かって・・・しばらく自分の家で看病して・・・羽も飛ぶ事が出来ないんじゃないかって位に傷付いてて・・・診ていてとても痛々しかったよ」

ミナギは、少し涙目になりながらもカイトの話を聞いていた。

・・・・・・・・・。

少しして、吹いていた風が止みだした。

一瞬だけ、辺りが沈黙に包まれたようだった。

再びカイトはフォーの飛んでる方向へ歩き出し、ミナギもその後をついていった。

「ふぅ・・・。それで、フォーは俺が食べ物をあげても何も口にしてくれなくて・・・「食べないと死んじゃうよ」って言っても、何も答えてくれずにただ、俯くだけだったんだ・・・」

「フォーちゃん、まだカイトの事・・・怖がってたんだね・・・」

「うん、俺が人間だからやっぱり怖かったと思う・・・それから4日後かな?フォーがやっと食べ物を口にしてくれたのは」

カイトは、あの時の事を頭の中で映像化しながらミナギに話した。

「・・・うん」

「いつも側にいて、看病して・・・それから一か月程かな・・・?やっと歩き回れるくらいまで回復したのは」

カイトは、歩くのを止め、一息置いてから遠くの町を眺めた。

風で草木の揺れる音だけが静かに流れていた。

「ようやく俺や母さんにも心を開くようになって、笑ってくれる回数が増えて・・・嬉しかったんだ。このままフォーが心開いてくれなかったら・・・って、考えると・・・」

「カイトって、優しいね」

ミナギは、カイトの隣に立ってカイトの顔を覗いた。

「えっ、そうかなぁ・・・?」

「うんっ、そうじゃなかったらフォーちゃん・・・心開いてなかったよ」

ミナギは笑顔で話した。

・・・・・・・・・。

・・・。

「フォー♪」

「・・・・・・・・・」

ミナギは、楽しそうに飛んでるフォーの姿を見て、どこかもの悲しい気持ちになった。

「フォー、あんまり遠くまで行くなよー!」

「フォー♪」

カイトがそう言うと、フォーは迂回して近くを飛び始めた。

「それで、フォーに早く空を飛べるようになってほしくて、一緒に色んな所に連れて行ったり、この場所で俺がこうして飛ぶんだよって・・・」

そう言って、カイトは両手を広げてバサバサとやった。

「・・・くすっ」

「あっ、ひどいなぁミナギ・・・笑わなくてもいいじゃん」

「えへ、ごめんねカイト・・・だってあまりにもおかしかったから」

気が付いたら、ミナギは笑っていた・・・さっきまでの悲しい顔を忘れる程に・・・。

「カイト、ありがと」

「ん、どうしたのミナギ?急に・・・」

「私、また泣きそうになったから・・・笑わせてくれて、悲しい気持ち、吹っ飛んじゃった・・・」

「あー、ひどいなぁ・・・」

「くすす」

カイトは、心から笑ってるミナギを見て自分も笑うしかなかった。

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#2「竜翼~りゅうのつばさ~」8

「それから、少しずつ飛べるようになったんだけど、まだ危なっかしくて・・・」

「うん・・・」

「怪我が治りたての頃は大体1メートル位は飛べたんだけど、すぐに落っこっちゃって・・・草の無い場所では俺が何とか受け止めたけど・・・」

カイトは、動きを交えながらフォーとの思い出を話した。

「飛べなくなっちゃう位に傷を負っちゃったんだね・・・」

「うん。でも、少しずつ飛べるようにはなって・・・半年程かな?・・・フォーも少しだけ大きくなって・・・」

「半年も・・・」

半年・・・カイトとフォーはとてつもなく辛く長い日々だったのかなと、ミナギは少し言葉に詰まった。

「フォーに元気出して欲しくて「今日こそ飛ぼうな」って言ったんだ。その時だけ風が大人しくなって・・・フォーが思いっきり叫んで翼を大きく広げたんだ。俺はその時、今度こそフォーは飛べるって、思ったんだ」

「うんっ・・・」

ミナギは静かに息を飲んだ。

カイトは、ゆっくりとフォーの飛んでる後を歩きながら話し始めた。

「次の瞬間、フォーが凄く高い所まで飛んで・・・「やったな、フォー!」って言ってた。フォーも嬉しそうに飛んでたよ」

カイトは、大きく翼を羽ばたかせて飛んでるフォーの姿を見ながらフォーに手を振った。

「良かったよ、飛べないかもしれなかったのにね・・・」

ミナギは、何だかほっとした顔をしていたようだった。

「フォーがやっと飛んでくれて、これで大丈夫だって・・・そう思って」

カイトはそう言って一息置いた。

「カイト・・・?」

「あの時から決めていた事があって・・・フォーが空を自由に飛べるようになったら・・・」

「・・・?」

ミナギは、カイトの言い方が気になったがカイトは話を続けた。

「フォーが空を飛べて、一週間ぐらいかな?・・・フォーとここに来て、フォーに話したんだ」

「・・・・・・・」

「「フォー、もう大丈夫だよな・・・もう仲間や家族の所に行けるよなって」ってフォーに言って・・・」

「え・・・?」

「ここで別れようって・・・フォーに」

カイトはあの時の思い出を再現するように動き回りながらミナギに話した。

「カイト・・・どうしてそんな事フォーちゃんに言ったの?」

「あの時は、フォーにだって家族や仲間だっている。このままここにいたら戻れなくなると思って・・」

カイトは、高く飛んでるフォーの姿を見ながらあの時の思いを話した。

「それは、そうだけど・・・でも、せっかく仲良くなれたのに、もう別れなんて・・・」

「それに・・・」

「それに?」

カイトはミナギに背を向けたまま話し始めた。

「「フォー、お前を襲ったのは、俺と同じ人間・・・そんな人間の側にいつまでも一緒にいちゃいけない」って・・・そうフォーに言った」

「・・・・・・・・・」

同じ人間・・・フォー襲ったのも、助けたカイトも同じ人間・・・その言葉にミナギは言葉が出なかった。

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#2「竜翼~りゅうのつばさ~」9

「そう言って、俺がこの場を離れようとしたら、フォーが俺の目の前で飛んできてしきりに首を横に振るんだ・・・。だから、俺は「来るな!お前は俺より大切な家族や仲間がいるんだから・・・これでさよならにするよ、いいね」って、言ったんだ」

カイトはあの時の事を思い出して、少しだけ顔を下に向けた。

「・・・でも、フォーはそれでも俺から離れようとはしなかったんだ・・・。急に俺の目の前に倒れ込んで、泣いてた俺の顔を舐めてきて・・・「何でだよ?俺は人間なんだぞ、お前をあんな酷い目に合わせた同じ人間なんだぞ!」って言ってもフォーは首を横に振って・・・」

カイトは、少し照れを隠すように話を続けた。

「そうしたら、フォーと別れる事が出来なくなっちゃって・・・「いいのか?俺や母さんやこの町の皆と一緒にいてくれるのか?」ってフォーに言ったらフォーも涙を流しながら・・・」

「くす、カイトはカイトだから・・・そうフォーちゃんは思ったんだよ。カイトは優しいから・・・」

ミナギは笑顔でカイトにそう話した。

「そうなのかなぁ・・・?・・・まぁ・・・それで今もこうしてフォーと一緒にいられる・・・出会いは凄く辛かったけど、こうしてフォーと・・・」

「あっ・・・」

「え・・・どうしたの?・・・ミナギ」

カイトは、ミナギの見てる後ろを振り向くとかなり近くまでフォーが来ていた。

「フォー♪」

「わっ!」

いつから側にいたのか・・・話に夢中でカイトとミナギはフォーが近くにいる事に気が付かなかった。

「フォー♪」

「あはは、やめろってフォー、くすぐったいよ・・・」

「くすすっ」

カイトとフォーのじゃれあってる姿を見て、ミナギはほっとしたように笑ってい。

・・・・・・・・・。

・・・。

「フォーゥ・・・」

カイトとミナギは、フォーが飛んでいる後を歩いていた。

「フォーちゃん、本当に楽しそう」

「今日、ここに来て良かったよ。フォーも凄く喜んでるし」

「くすっ、そうだね」

「フォー、もっと近くまで来いよー!」

「フォー♪」

フォーは、ゆっくりとカイトとミナギの側に寄った。

・・・・・・・・・。

・・・・・・。

「風が心地よいね・・・」

「ふぅー・・・」

「私達の町が、あんなに小さく・・・」

カイトとミナギは、一番高い場所に立っていた。そして、その後ろにフォーがいた。

「今日はありがと、カイト」

「うん、ミナギにフォーを紹介できたし、遊び相手が出来て良かったな、フォー」

「フォー♪」

フォーはとても嬉しそうに答えた。

「明日から学園祭の準備、頑張らないとな・・・今日は休んじゃったし・・・」

「今度の日曜だね」

「あっ、一応土曜から開催されるんだ・・・俺は土曜日は忙しくて案内できないけど・・・」

カイトは付け加えるようにミナギに話した。

「あっ、そうなんだ・・・でも、せっかくだから土曜日も見たいな・・・」

「いいけど・・・うちの学校、結構広いから・・・1人だと迷うかも・・・当日は家族か友達とでも・・・」

「大丈夫だよ、カイト・・・私だってそのくらいは・・・」

何となく、ミナギは拗ねてるようだった・・・。

「あんまし会えないと思うけど・・・絶対楽しい学園祭にするから」

「うん、すっごく楽しみにしてるよ」

ミナギは土曜日が来るのが待ち遠しかった・・・。

#2「竜翼~りゅうのつばさ~」end.

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