#9「冬始~ふゆのはじまり~」13
小さい頃の自分を見ていられなくなり、今のミナギの幻影も病室の廊下に出ていた。
廊下のソファーでエリが泣きそうな顔でミナギの事を祈っていた・・・。
お姉ちゃん・・・そんなに、私の事を・・・
少しして、エリは別の場所へと移動した。
お姉ちゃん・・・・・・
エリの淋しそうな背中を今のミナギの幻影は見送った。
少し後、反対側の廊下から男の子が手にビンを持って戻ってきた。
あっ・・・
男の子は今のミナギの幻影を通り抜けて、小さい頃のミナギのいる病室に入っていった。
その後を今のミナギも追った。
「えへ・・・」
「ほらミナギ、薬だよ。これを飲んで元気になって」
男の子の手には、白く光る一粒の薬が入った小さなビンがあった。
「凄く、綺麗・・・」
あの薬が・・・男の子の・・・私への願い・・・?
小さい頃のミナギが男の子から薬を受け取って飲むと、小さい頃のミナギの体を不思議な感覚が包んだ。
「何だか・・・体が楽だよ」
小さい頃のミナギから、少しずつ笑顔が戻ってきて、声も出せるようになっていた。
「良かった。もう今日はゆっくり寝てね。俺はミナギが眠ってから帰るから」
「うん、ありがと・・・」
男の子は小さい頃のミナギが眠るのを待ってから、静かに病室を後にした。
まるで、昨日の事のように、今のミナギから記憶が戻っていった。
でもミナギの中で忘れてしまってるのか、肝心の男の子の名前の所で声が濁ってしまい聞き取る事が出来なかった・・・。
それから・・・3日後、ミナギはエリから1週間後にエリの住む町へ行く事を伝えられた。
「あっ、ミナギ。元気になって良かった。今日はどこに・・・」
「・・・・・・」
「ミナギ?」
男の子が小さい頃のミナギの顔を見ると、涙目になっていた。
「うっ・・・うわああぁー・・・」
小さい頃のミナギは、男の子に抱きついて泣き出した。
私、この時・・・凄く、悲しかったんだよ・・・
君と、離れ離れになるのが・・・
今のミナギは、2人の様子を見ながらあの時の思いを辿っていた。
「・・・何があったの?ミナギ・・・落ち着いて話して」
「ぐすっ・・・私、後1週間でこの町と君にお別れしちゃうよ・・・」
「えっ・・・」
男の子は何て言っていいか分からずに、小さい頃のミナギの頭を撫でた。
「嫌だよ・・・君と離れ離れになるの・・・折角友達になれたのに・・・」
「・・・・・・」
今のミナギは、その2人の光景を俯きかけたままで胸を押さえながら見ていた。
「私、君ともっと色んな所へ行きたい・・・君ともっと遊びたいよ・・・」
「・・・一緒に来て!」
男の子は、小さい頃のミナギの手を引っ張って走り出した。
今のミナギも、後を追った。
・・・・・・。
「はぁ、はぁ・・・」
「はぁ・・・」
一体、どれだけ走ったのだろう・・・?
気が付けば、森の奥の大きな木の前まで来ていた。
ここは・・・?
今のミナギは、ここがどこなのかよく覚えていなかった。
「さっ、着いたよ」
「えっ・・・」
ここは昼間なのに少し薄暗い場所だった・・・辺りを見渡すと、蛍のような光がふわふわと浮かんで飛んでいた。
「わぁ・・・」
小さい頃のミナギは、今まで見た事の無い世界に言葉にならない気持ちになっていた。
「ちょうど良かったみたい・・・この光の風景は他の場所ではあまり見られないんだ・・・」
「綺麗・・・」
2人はしばらく、この幻想的な世界を見渡していた。
本当に、別世界に・・・行ったみたいだよ・・・
あの頃を思い出したのか、今のミナギの幻影もこの景色を目を潤ませながら見ていた。
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