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#9「冬始~ふゆのはじまり~」11

「そこの椅子に座りなさい」

ミナギはゆっくりと、椅子に座った。

アステルは部屋の奥から魔法の杖を取り出して、ミナギの正面に立った。

「静かに目を閉じて、心の中で願いを唱えなさい」

「・・・・・・」

ミナギは目を閉じて、願いを唱えた。

どうか・・・

カイトを・・・

助けてください・・・・・・

アステルは、杖の先をミナギの心臓に向けた。

「この者の心からの願い事・・・自らの心の欠片と変えて・・・」

「・・・・・・」

「解き放て・・・願いの欠片よ・・・」

「・・・・・・」

ミナギは心から願いを続けた・・・

「・・・だめだ」

アステルは、静かに杖を下ろした。

「えっ?」

ミナギは、アステルの言葉に思わず声を出してしまった。

「残念だが・・・ミナギの願いを叶える事は出来ない・・・」

アステルは諦めて杖を元の位置に戻した。

「どうしてなんですか?・・・私の心が汚れているからですか?」

「そうではない・・・お前はもうすでに誰かの願いによって生きている」

「誰かの・・・願い?」

アステルの思いもしない言葉にミナギは、はっとなった・・・

あの時の・・・

男の子が持ってきてくれた・・・

白く光る薬が・・・・・・

「あ・・・・・・・・・」

ミナギは何も言葉が出てこなかった。

「もし、その願いの欠片を取り出してしまったら・・・願いを叶える前に、ミナギ自身が死んでしまう・・・」

「そ、そんな・・・」

「残念だが・・・」

ミナギは途方に暮れそうになった・・・

「・・・・・・」

誰かの・・・願い・・・?

「アステルさん」

「どうした?ミナギ・・・」

「この私の中にある願い・・・誰の願いか分かりますか?」

ミナギは、願いの欠片の埋まってる部分に右手を置きながらアステルに聞いた。

「知らないのか・・・?」

「忘れてしまって・・・思い出そうとすればする程、忘れてゆくようで・・・」

少し、アステルは考えて・・・

「分かった。こっちへ来なさい」

アステルは庭の方へ移動した。

そこは、さっきと正反対に明るく花壇や鳥達が沢山いた。

「あっ、フォーちゃん」

「フォー♪」

余程この場所が癒されるのか、フォーは嬉しそうな顔をして鳥と会話していた。

「そこの椅子に座りなさい」

「さっきの場所じゃないんですか?」

アステルは、庭を見渡してからミナギに話し始めた。

「忘れた記憶を呼び戻すには、心から落ち着かせる必要がある・・・ここは落ち着かないかな・・・?」

「い、いえ、心からほっとします」

ミナギは慌てて笑顔で答えた。

「では、そこの椅子に座って、目を閉じて肩の力を抜きなさい」

アステルにそう言われて、ミナギは椅子に座って静かに目を閉じた。

「・・・・・・」

アステルは、ミナギの心臓近くに杖を近付けた。

「この者の願いを込めた者・・・忘れ去りし記憶をこの者に甦らせよ」

杖から淡い光がそっと、ミナギを包んでいった・・・

「あっ・・・」

記憶が・・・・・・

・・・・・・――

町の真ん中にある噴水近くのベンチで小さい頃のミナギが座っていた。

その様子を客観的に、今のミナギの幻影が見ていた。

覚えている・・・

あの日の、私自身・・・

あの時の私は・・・もう・・・

「ねぇ・・・」

・・・誰なの?

「どうして、泣いてるの?」

小さい頃のミナギに同じ年位の男の子が話し掛けていた。

あの、男の子は・・・もしかして・・・

そうか・・・これは・・・

初めてあの男の子と出会った日だ・・・。

そっか・・・あの時・・・

私・・・泣いてたんだね・・・・・・。

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