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2008年11月

#9「冬始~ふゆのはじまり~」2

パタン。

カイトはベッドに鞄を放り投げて横になった。

「・・・・・・」

カイトは、あの時のミナギを思い出していた・・・

・・・・・・―――

(私は、たとえ他の人がカイトを怖がっても、一緒にいたい。カイトと笑っていたいから・・・)

「・・・・・・」

・・・・・・―――

(カイト・・・まだ平気なんだよね?・・・死んじゃったりしないよね??)

「・・・・・・」

これ以上悲しい気持ちは欲しくない・・・

母さんや、フォーを・・・死なせたくなかったから・・・

こんな自分に出来た事・・・でも・・・

何も失わずにいるなんて・・・

出来ないのかな・・・?

心の欠片と引き替えに手に入れた温もり・・・

でも・・・

俺は皆と、笑う事・・・もう・・・

出来ないかもしれない・・・

「・・・・・・・・・」

色々な事を考えてる内に、カイトは涙を浮かべていた。

皆との、約束・・・

破ってしまうかも・・・

皆・・・・・・ごめん・・・

・・・・・・・・・。

ジリリンと、電話が鳴っていてカイトは受話器を取った。

「もしもし」

・・・・・・。

「はい、分かりました、少しお待ち下さい」

カイトは受話器を置いて母さんを探した。

「母さーん」

「どうしたの?カイト」

台所から母さんの声がした。

「母さん・・・」

カイトは母親に電話の事を伝えた。

「分かったわ。今出るから・・・」

母親はゆっくりと電話の所まで移動した。

「ただいま変わりました」

・・・・・・・・・。

2日後、カイトと母親はバスの停留所に立っていた。

電話の相手は病院からで、カイトの母親の担当の先生だった。

カイトの母親は約一週間程、年に一度の精密検査を受けに少し離れた病院へと行く所だった。

「母さん、気を付けてね」

「家の事よろしくね、カイト・・・」

「うん・・・」

プシューと、バスのドアが閉まりゆっくりとバスは発車した。

カイトは、母親の乗ってるバスが見えなくなるまで手を振っていた。

「・・・・・・」

母さん・・・

もしかしたら、母さんが帰ってくる頃には・・・

もう、俺は・・・

・・・・・・。

ピンポーン。

その日の夕方カイトは、フォーを連れてミナギの家に来ていた。

そして、カイトが玄関のベルを鳴らすと扉が開いた。

カチャ・・・

「カイト?」

「やっ、ミナギ」

あっ、フォーちゃんも」

「フォー♪」

ミナギは、カイトとフォーの訪問に笑顔で交わした。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」3

「カイト、どうしたの?こんな時間に・・・」

「うんとね・・・実は少しの間だけフォーを預かっていてほしいんだ」

カイトは、フォーの首元を撫でながらミナギに話した。

「え?どうして・・・?」

「実は、お母さんが病院で年に一度の精密検査で約一週間家に誰もいなくなっちゃうから・・・それで」

カイトは、ミナギに手短に話した。

「あっ、迷惑だったらいいんだ。フォーもきっと1人でも大丈夫だと思うし・・・」

「うん、いいよカイト、私の家で預かっても」

ミナギは笑顔で答えた。

「えっ、でも一応エリさんにも話した方が・・・」

「あっ・・・」

カイトにそう言われて、ミナギは慌ててエリがいるらしい居間の方へ戻っていった。

「ちょっと待ってて、今お姉ちゃんに話してくるから」

ミナギは戻りながらカイトに言った。

「フォー・・・」

「フォー、急な事になってごめんな・・・」

カイトは申し訳なさそうにフォーに話すと、フォーは首を横に振った。

少しして・・・ミナギがエリと一緒に戻ってきた。

「こんばんわ、カイト君」

「あっ、エリさんこんばんは」

カイトは改まって、エリに挨拶した。

「ミナギから話は聞いてるわ。家で良かったらフォーを預かってもいいよ」

エリはカイトにそう答えた。

「本当ですか?すみません・・・個人的な我儘で・・・」

「ううん、いいよカイト君。カイト君の家お母さんが病院に一週間泊まりで、誰もいないのでしょう?ちょうど私は今、自宅勤務だから家にいるし・・・フォーの面倒くらいなら大丈夫だから」

エリにそう言ってもらえて、カイトは心から感謝した。

「本当にありがとうございます。何て感謝していいか分かりませんけど・・・」

「気にしなくてもいいよ、カイト君・・・ただいつも通りミナギと仲良くしてくれたら私は嬉しいから」

「私も、一週間だけだけどフォーちゃんと一緒にいられるし・・・カイトも時々家に来てフォーちゃんに顔を出してあげてね」

カイトは、ミナギに笑顔でそう言われた。

「う、うん・・・もちろん」

カイトは、少しだけぎこちない感じに答えた。

「カイト・・・?」

「え・・・?」

目の前にミナギの真っ直ぐな眼差しが入ってきた。

「どうしたの?ボーっとして・・・」

「え?ううん・・・今日はちょっと疲れてて・・・」

カイトは、その場を取り繕う感じで答えた。

「ところでカイト君、夕飯は食べたの?」

エリがカイトに尋ねてきた。

「えっと、まだです。これから家に帰って作ろうかなって・・・」

「カイト君、良かったら家で夕飯食べていかない?」

エリは笑顔でカイトに提案した。

「でも、それはさすがに・・・」

「一緒に食べようよ、カイト」

カイトが遠慮しようとすると、ミナギが割り込んで話に入ってきた。

「いいのかな?・・・本当に」

「私は大歓迎だよ。もちろんお姉ちゃんも・・・」

ミナギは笑顔でエリの顔を覗き込むように見た。

「遠慮はいらないよカイト君、家もこれから晩ご飯を作る所だから。フォーも、ねっ」

「フォー♪」

エリは、笑顔でフォーにも言った。

「それじゃ・・・」

・・・・・・。

それから、カイトはミナギとエリとフォーで夕食を一緒に食べた。

何気ない皆との会話がとても楽しかった。

でも・・・俺にはもう残された時間は・・・

・・・・・・・・・。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」4

「それじゃ、ミナギ」

「うん、また明日ね。カイト」

「フォーもおやすみ」

「フォー」

カイトは、フォーの頭を撫でてミナギの家を後にした。

・・・・・・・・・。

パタン。

「ふぅー・・・」

カイトは、誰もいない家に明かりを点けて自分の部屋に戻った。

これから、どうすれば・・・

じっとしていても仕方ないので、カイトは自分の部屋の荷物を広げてみた。

がさっ・・・

「あれ?」

上の戸棚を開けると、少し小さめな包みが出てきた。

「何だろ・・・これ?」

カイトはとりあえず開けてみる事にした。

「これは・・・」

包みの中は黄色いリボンだった。

「俺、こんなの買ったかなぁ・・・?」

自分の部屋にあったのだから、自分が買ったのは間違いなかったが・・・いつなのかハッキリと覚えてなかった。

誰かにあげる為・・・?

でも・・・誰にあげる為に買ったのだろう・・・?

ミナギ・・・?

でも・・・初めて出会ったのは学園祭の準備をしていた時・・・

小さい時・・・初めての友達・・・

誰だったのかな・・・?

また会おうねと・・・約束、交わしたような・・・

・・・・・・。

しばらく、記憶の中を辿ってみたが、途切れ途切れで上手く思い出せなかった。

何か、大事な事・・・忘れてるような・・・

考えてみても出てこないので、包みは机の上に置く事にした。

「・・・・・・」

やっぱりまた、あの人の所へ相談しに行こう・・・

このまま消えてしまうのを待ってる程、俺は諦めが悪いらしい・・・

たとえ、助かる方法が無くても・・・

これ以上、考えても仕方がないので、明日にする事にした。

「さっ、もう寝ようかな?」

カイトが起き上がろうとした時、急に目の前が一蹴だけ真っ暗になった。

「うっ、ごほっ、ごほっ・・・」

カイトは、慌ててポケットの中の薬を飲んだ。

・・・・・・・・・。

次の日、カイトは学校を休んだ。

「風邪」と、嘘を吐いて・・・。

・・・・・・・・・。

その次の日も、カイトは学校を休んだ。

・・・・・・。

キーン・・・コーン・・・

学校は昼休みに入った。

昼食を食べ終えたシンジはミナギを探していた。

学食、体育館、図書館と見て回り、1年の教室に向かっていた・・・

シンジが教室の窓を覗きながら歩いてると、教室の中で友達と楽しそうに話してるミナギを見かけた。

「ミナギー」

「えっ?」

ミナギは急に名前を呼ばれて振り向いた。

ミナギが振り返ると、教室の外でシンジが手を振っていた。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」5

「シンジ、どうしたの?」

「あのさ、カイトは大丈夫なのかなって・・・」

シンジは、いつもより真剣な顔でミナギに話した。

「え?カイトがどうかしたの??」

ミナギは、シンジの話に驚いていた。

「あっ・・・ミナギも知らないんだ・・・カイト、2日も休んでるからさ・・・」

「カイトが2日も休んでる・・・?」

ミナギは何も言葉が出てこなかった。

「先生は風邪だって言ってたけどな・・・俺に連絡無いからもしかしたらミナギに話してるかなって思ったんだけど・・・」

「ううん・・・私は何も・・・」

ミナギは小さく首を横に振って答えた。

「そっか・・・邪魔しちゃって悪かったよ」

「ううん・・・いいよ」

そう言って、シンジは教室を後にした。

「カイト・・・・・・」

ミナギは、急にカイトの事が心配になってきた。

・・・・・・・・・。

授業が終わってミナギはカイトの家に向かった。

ピンポーン。

ミナギは、カイトの家に着いて呼び鈴を押した。

・・・何も反応は無かった。

ミナギは何回も呼び鈴を押したが、出てくる気配が無かった。

「いないのかな・・・?」

ミナギはとりあえず、ドアを叩いてみた。

コンコン・・・

「カイトー、いるの?」

何回か叩いてはカイトの名前を呼んでみたが、何も反応は無かった。

「カイト、どこに行っちゃったのかな・・・?」

ミナギは諦めて帰ろうとした時、ドアの奥で音がした。

「カイト?いるの?」

ミナギはもう一度ドアを叩いてみた。

「・・・ミナギ?」

ドアの向こうからカイトの声が聞こえた。よく聞き取らないと分からない程の声で・・・

「カイト?」

「待ってて・・・今開けるから・・・」

カチャと玄関のドアが開いた。

「ミナギ・・・」

「カイト・・・大丈夫?」

2日前に夕飯を食べた時よりも、顔色が悪かったカイトを見てミナギは悲しげに言った。

「あはは・・・あまり良くないかな・・・?」

カイトは、ミナギに無理して笑顔で答えた。

「シンジから聞いたよ・・・風邪で2日も学校を休んでるって・・・」

「うん・・・ミナギ、とりあえず中に入って話そう」

「うん・・・」

ミナギはカイトに案内されて広間に入った。

「ごめんね・・・何も用意できなくて・・・」

「ううん、無理しなくていいよカイト」

ミナギは遠慮がちにカイトに言った。

カイトはミナギが座った後で、カイト自身も座った。

「ねぇ、カイト・・・」

「何?ミナギ・・・」

「嘘、なんだよね・・・風邪で休んでるって・・・」

ミナギは、言い難そうにカイトに聞いた。

「あ、う、うん・・・」

カイトは少し、ぎこちない感じに答えた。

「昨日はアステルさんの所に行ってたんだ。今日もこれから出掛けようと思ってて・・・」

「治るんだよね・・・カイト・・・」

「ああ、う、うん・・・」

カイトは無理に笑って答えた。

「・・・・・・」

「ミナギ?」

「もう・・・どうしようもないの?・・・もうどうする事も出来ないの?」

ミナギは、泣きそうな声でカイトに言った。

「ミナギ・・・」

「私・・・辛いよ、日に日に弱ってゆくカイトの姿を見ているのが・・・」

ミナギは、泣きそうになりながら涙を堪えてカイトに話した。

「・・・俺は、母さんやフォーを助けたくて自分の意思で心の欠片を引き替えにした・・・この胸の冷たさや苦しさは自然の流れに逆らった俺に対する報いだって・・・思うんだ」

カイトはもう、覚悟を決めたような・・・そんな話し方をした。

もう、消えるのは・・・

怖くないから・・・・・・

「・・・嫌だよ」

「ミナギ?」

カイトがミナギの方を見ると、ミナギは泣いていた・・・。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」6

「父さんも母さんもいなくなって・・・私の前から大切な人がこれ以上いなくなるのは嫌だよ・・・」

「ミナギ・・・」

カイトは、ミナギの泣いてる顔を見ているのが辛くなってミナギの頭を撫でた。

「ぐすっ、ぐすっ・・・」

「ごめんミナギ・・・まだ諦めたわけじゃないよ・・・今からアステルさんの所に行って、何か方法があるかどうか調べに行くから」

カイトは、静かにミナギから離れ・・・

「えっ?」

ミナギの両手はカイトの服を掴んで離さなかった。

「待って、私も行くよ。このままじっとしてるのは嫌だよ・・・」

「うん・・・分かったよミナギ。今から準備するから外で待ってて」

「・・・うん」

カイトにそう言われて、ミナギは外に出て行った。

・・・・・・・・・。

カイトは家の鍵をかけて、ミナギの待つ場所へと向った。

「カイトー」

「ごめん待たせて・・・あれ?フォーも連れてきたのか・・・」

「だって・・・フォーちゃん、カイトに会いたいって・・・目をしたから」

そう言われてカイトがフォーを見ると、淋しそうな表情をしたフォーの目が写し出された。

「フォーゥ・・・」

「フォー、ごめんな・・・お前にまで迷惑をかけたくなかったから・・・」

そう言って、カイトはフォーの頭を撫でた。

「フォー♪」

「それじゃ、行こうミナギ、フォー」

「うんっ」

「フォー!」

カイト達はゆっくりと歩き始めた。

目指す場所はずっと山奥にある一軒家・・・歩いて行くには遠い場所にあった。

「・・・はぁ、はぁ・・・」

「カイト、大丈夫?」

少し経って息が荒くなってるカイトを見て、ミナギが心配そうに話し掛けた。

「大丈夫、これくらいなら・・・」

カイトは、ミナギに余計な心配をかけないように無理して笑って話した。

「フォー・・・」

カイトがそう話してると、フォーがカイトの方を向いた。

「え?どうしたフォー・・・」

カイトが話し掛けると、フォーは腰を下ろした。

「フォー」

「俺に乗れって言ってるのか?フォー・・・」

カイトがフォーに聞くと、フォーはそっと頷いた。

「うん・・・分かったよフォー・・・少し重くなっちゃうけど・・・」

カイトはフォーに言いながら、静かにフォーの背中に乗った。

「急ごう、カイト」

「うん」

カイト達は、再び歩き始めた。

・・・・・・・・・。

町の方では、学校帰りにシンジがぶらぶらと見て回っていた。

「んー・・・」

シンジはふと、昼間の事が頭を過ぎった。

「・・・ミナギにも話してないなんてな・・・カイト大丈夫かな?」

シンジはせめてにと、何かお見舞いになりそうなものを探し始めた。

・・・・・・・・・。

少しして、カイト達は町の中に入った。

「ちょっと、待ってて」

カイトは1つの店の前で、フォーから降りた。

「カイト、この店に用事があるの?」

「ここ、俺がバイトで働いてる店なんだ。昨日休んじゃった事を謝んないと・・・」

「ここが、カイトの働いてるお店なんだ・・・」

ミナギは店の外からどんな店なのか覗いていた。

「はは・・・今度見に来てもいいよ、ミナギ」

カイトがミナギにそう話すと、笑顔でカイトに頷いた。

「それじゃ、行って来るから」

カイトはそう言って、店の中に入っていった。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」7

「・・・・・・」

カイトがいなくなった後、ミナギは少し俯いた感じになった。

「フォー・・・?」

「あっ、フォーちゃん・・・」

その様子を見ていたフォーがミナギの頬にそっと触れた。

「フォー・・・」

「・・・フォーちゃん・・・」

ミナギは、どうしようもないくらいに悲しい気持ちになってフォーの頬に顔を寄せた。

「私、どうしたらいいの・・・?」

「フォー・・・」

・・・・・・・・・。

「どうしよっかなぁ・・・?」

一方、シンジはカイトの見舞いに何を買おうか一軒一軒店を回っていた。

「あれ・・・?」

シンジは、反対側の歩道にいる1体のドラゴンを見かけた。

「あれは、フォー・・・?」

シンジは気になって、見に行く事にした。

・・・・・・。

「ぐす・・・」

「フォーゥ・・・」

ミナギはカイトに何も出来ないのではと考えてる内に、涙が止まらなくなっていた。

フォーは何とか慰めようとミナギの頬に触れていた。

「おーい、フォー」

その時、反対側から渡って来たシンジがフォーに気が付いて声を掛けてきた。

「あっ・・・」

シンジの声に気が付いて、ミナギは我に返った。

「フォー・・・ミナギ?」

「あっ、シンジ・・・」

ミナギはとっさに笑顔でシンジに答えた。

「ミナギ・・・お前泣いてないか?」

シンジがそう言うと、ミナギは慌てて目を擦った。

「ちょっと、おかしい事があって、笑いすぎて・・・」

誤魔化すには、あまりにも無理のある言い訳だった・・・

「どうして、ミナギとフォーがカイトのバイト先にいるんだよ?・・・カイトは・・・」

シンジがそう尋ねるとミナギは少し言い難そうに・・・

「あの、えっと・・・」

その時、ウイーンと店の自動ドアが開いてカイトが出てきた。

「お待たせ、ミナギ、フォー・・・」

カイトがミナギとフォーに話し掛けたところで、シンジの存在に気が付いた。

「シンジ・・・」

「カイト・・・お前、風邪で休んでたんじゃ・・・?」

カイトの姿にシンジは少しだけ驚いていた。

「シンジ、これはね・・・」

「風邪薬が切れたから、買いに来てたんだ。ちょうどミナギが見舞いに来てくれて、それで俺1人じゃ危ないからって一緒について来たんだ」

カイトは、とっさに思いついた理由をシンジに話した。

「そ、そうなのか・・・?」

シンジがそう言うと、ミナギは何度も頷いた。

「う、うん・・・」

「まだ、調子は良くないけど・・・」

カイトはシンジにそう話した。

そう言われてシンジがカイトの顔を見ると、そのあまりのカイトの顔色の悪さに表情が固まった。

「カイト・・・本当に風邪なのか?そんなに顔色が悪いなんて・・・本当は違う・・・」

「風邪だよ。風邪だから・・・もう俺は帰るから・・・」

カイトはそう言って早々とこの場から・・・

「おい、待てって・・・・・・っ!」

シンジがそう言った時に、はずみでカイトの胸に触れてしまった。

「あっ・・・」

シンジは、そのあまりの冷たさに言葉を失っていた・・・。

「カイト・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

カイトは何も言わずに、フォーの背中に乗った。

「ミナギ、フォー、先を急ごう」

「えっ・・・う、うん」

「フォーゥ・・・」

カイトは顔を下に向けたままでミナギとフォーに話した。

「カイト・・・お前、何があったんだよ・・・?」

シンジが悲しげな顔でカイトに聞くと、カイトは顔を下に向けたままで話し始めた。

「ごめん、シンジ・・・今はまだ話せない・・・」

カイトはシンジにそう話して、フォーに先に進むように言った。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」8

「カイトー、必ず戻ってくるよなー?二度と会えなくなるなんて事はないよなー!?」

シンジの問いかけに、カイトは何も言わずに小さく頷いた。

「待ってるからなー・・・必ず戻ってこいよー・・・」

シンジは、カイト達が去った後、顔を伏せていた。

溢れかけた涙を隠すように・・・

・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・」

カイト達は、何も言わずに目的地へと進んでいた。

「カイト・・・」

「・・・・・・・・・」

せめてシンジにだけは、知られたくなかった・・・

風邪のままで、誤魔化したかった・・・

でも・・・嘘はいつかは、ばれてしまうから・・・

きっと、今がその時なのかもしれない・・・

カイトは、今まで誤魔化してきた分のツケがこうして回ってきたと、泣きそうになってる気持ちを抑えながら思った。

「カイト・・・」

「フォー・・・」

ミナギとフォーは、カイトの苦しんでる姿を見るのが辛かった。

少し経って・・・

「ミナギ、フォー・・・」

「カイト?」

「フォー?」

カイトの重い口が開いた。

「心配かけてごめん。俺、必ず笑って戻るよ・・・ミナギやフォーに母さん、それにシンジやハルや今まで出会った皆に・・・」

カイトは、顔を上げてミナギとフォーに話した。

「うんっ」

「フォー!」

カイトの背中を押すように、ミナギとフォーも答えた。

「あまり遅くなっちゃうと大変だな・・・ねぇ、フォー・・・」

「フォー?」

「俺とミナギを乗せて、あの山のふもとの近くまで飛ぶ事出来るかな?」

カイトにそう言われてフォーは目的地近くの山の周りを見渡した・・・

一箇所だけ、山道に入る広い歩道があった。

「フォー」

フォーはカイトに小さく頷いた。

「それじゃ、お願いするよフォー」

フォーはそうカイトに言われて、ゆっくりとしゃがんでミナギを乗せる準備をした。

「待ってて、1回降りるから・・・」

カイトが降りようとした時、待ってとミナギは言った。

「私、カイトの後ろでも大丈夫だよ。だから、カイトはそのまま乗ってて」

ミナギはそう言ってカイトの後ろに座った。

「フォー、大丈夫?」

カイトはフォーに尋ねると、大きく頷いた。

カイトとミナギは命綱をしっかりと握り締めた。

「フォー、俺達は大丈夫だから、いつでも飛び立っていいよ」

カイトがそうフォーに話すと、フォーは翼を大きく広げた。

一瞬だけ、風が止んで・・・

「フォー!」

最初はゆっくりと、やがて少しずつ速度を上げて翼を羽ばたかせ、ゆっくりと上昇し始めた。

「フォー!」

少しずつ飛行速度を上げてゆき、何とか風の軌道に乗った。

町から草原を追い越して、あっとゆう間に山の入り口まで辿り着いた。

「フォー」

バサッ、バサッと静かにフォーは地面に降りた。

フォーはゆっくりとしゃがんでから、ミナギはそっと降りた。

「フォー、ありがとう」

カイトは、フォーの体をそっと摩った。

「フォー♪」

「もう少しだよ、ミナギ・・・」

「うん」

カイト達は山奥に入って行った。

明るい内はまだ大丈夫だが、夜になると小さな明かりさえもかき消されてしまいそうな雰囲気だった。

暗くなる前に戻らないと・・・カイト達は急ぎ足で先に進んだ。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」9

少し歩いて・・・やがて、明るい場所に出ると小さな一軒家が見えた。

「着いたよ」

「ここが・・・」

今まで見た事の無い風景に、ミナギは少し辺りを見回していた。

「フォー、ありがと・・・重くなかった?」

カイトはフォーに尋ねると、フォーは笑顔で首を横に振った。

カイトはゆっくりとフォーから降りた。

「フォー、ここで待っててね」

カイトはフォーの頬を撫でながら話した。

フォーは小さく頷いた。

コンコン。

カイトは扉をノックした。

「入りなさい」

扉の奥から声が聞こえた。カイトは静かに扉を開けた。

「・・・・・・」

ミナギは、少し緊張した感じで中に入った。

中に入ると、沢山の本と薬が置いてあった。

「こんにちは、アステルさん」

「おお、カイトか・・・何だ、連れもいるのか」

アステルとゆう人物が、カイトの後ろにいたミナギの方を見つめた。

「初めまして、アステルさん・・・ミナギといいます」

「おお、礼儀正しい子だな・・・」

アステルは見た目は少しだけ怖い印象だったが、実際に話してみるととても優しい感じがした。

「今日も・・・お願いします」

「ああ、分かった・・・」

アステルは静かに席を立った。

そして、カイトとミナギは奥の部屋に通された。

テーブルの上には、色々な本が山積みになっていた。

「カイトが帰ってから、色々な本で調べてみたが・・・」

「見つかってないのですね?」

アステルの話にカイトは、静かに答えた。

「カイトはもう、助からないのですか・・・?」

ミナギは心配そうな顔で、アステルに聞いた。

「まだ分からん・・・今は薬で症状を抑える事でしか・・・」

「・・・・・・」

アステルの答えに、ミナギは何も言えなかった。

「カイト、私のあげた薬の効果は大丈夫か?」

「少しずつ、薬を飲む感覚が短くなってきています・・・」

「どれくらいの感覚で?」

「今は2日で苦しくなってきます」

アステルの質問に、カイトは淡々と答えた。

「もう、その薬も限界か・・・」

「・・・・・・・・・」

ミナギは、何かカイトの為にしてあげたい・・・でも、何も出来ない・・・

そんなもどかしい気持ちになっていた。

「やっぱり・・・自分の心の欠片を引き替えにして願いを叶えて、自分も助かろうなんて・・・虫が良すぎますよね・・・」

カイトは、自分のした事にもうどうする事も出来ないと思った。

「諦めちゃ・・・だめだよ」

ミナギはそっと、後ろからカイトにしがみついた。

「消えてほしくない・・・絶対に」

「ミナギ・・・」

ミナギは泣きながらカイトの背中に顔を寄せた。

「・・・・・・」

カイトはなんて言っていいか分からなかった。

「・・・・・・」

アステルは、そっと別室に入っていった。

しばらくして・・・アステルが別室から戻ってきた。

「カイト、新しい薬だ。これで胸の体温が少しは上がるはずだ」

アステルは、ピンク色の錠剤入りのビンをカイトに手渡した。

「ありがとうございます」

「また明日来なさい。私はカイトが来るまでに探しておくから」

「アステルさん、色々と迷惑かけてしまってすいません」

カイトは頭を下げてアステルに謝った。

「もう分かったから・・・過ぎてしまった事は仕方ない。もう遅くなるから今日の所は帰りなさい」

「はい。ミナギ、帰ろう」

「うん・・・ごめんカイト・・・私、何も出来なくて・・・」

ミナギはカイトにそう話すと、カイトは何も言わずにミナギの頭を撫でた。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」10

「気にしなくていいよ、また明日来て・・・」

「カイト?」

カイトはその場にしゃがみ込んで咳き込んだ。

「げほっ、げほっ・・・」

「カイト!しっかりして」

「あああ・・・」

カイトは今にも吐きそうな感じだった。

「いかん!カイトをベッドに寝かせないと・・・ミナギ、こっちへ連れてきなさい」

「は、はいっ」

ミナギとアステルはカイトの肩を持って、ベッドに寝かせた。

「カイト・・・」

ミナギはじっとカイトの手を握った。

「カイト、これを飲みなさい」

アステルはカイトに薬を飲ませた。

「ごほっ、ごほっ・・・」

「これで少し様子を見よう・・・」

「カイト・・・」

ミナギは、泣きそうな顔でカイトの手を握り続けていた。

・・・・・・。

「すぅー・・・」

薬が効いたのか、カイトは静かに眠りについた。

「ミナギ、カイトの事は私に任せてもう帰りなさい。親が心配するから

「はい・・・・・・明日来ます」

ミナギは部屋を後にした。

パタン。

「フォーちゃん、帰ろう・・・」

「フォーゥ・・・」

さっきまでの様子を外から見ていたフォーは、少し悲しげに鳴いた。

ミナギとフォーが森を抜けた所で、ちょうど辺りが暗くなり始めていた・・・

淋しい気持ちのまま、ミナギとフォーは帰宅した。

・・・・・・・・・。

次の日、授業を終えたミナギはすぐに帰宅して再びフォーとアステルの所へ出掛けた。

何よりも、カイトの事が心配だった・・・。

「フォーちゃん、お願い」

「フォー!」

バサッ、バサッとゆっくりと上昇し、風に乗るように森の方へ飛んでいった。

・・・・・・・・・。

コンコン。

「どなたかな?」

「ミナギです」

「ああ、入りなさい」

ミナギはゆっくり扉を開けて入った。

「アステルさん、カイトは大丈夫ですか?」

「カイトは出て行ったよ。用事があるからと、置き手紙を残して・・・私はその体じゃ無理だと言ったのに・・・ご飯を持っていったらいなくなってたよ」

「えっ?」

ミナギは驚いて声を出した。

「カイトはどこに行ったんですか?」

ミナギは泣きそうな顔でアステルに聞いた。

「家に戻るって書いてあった・・・本当にカイトは無茶をする・・・」

「戻ってくるんですか?」

「それは・・・分からん・・・」

「・・・・・・」

ミナギは、カイトを探しに行こうと思ったが思い留まった。

もしかしたら・・・カイトを救えるかもしれない・・・

「アステルさん・・・」

「どうした?ミナギ・・・」

ミナギは、思い切ってアステルに話した。

「私の願い・・・叶えてくれませんか・・・?」

「・・・まさか、カイトにか?」

ミナギは静かに頷いた。

「本当にいいのか?」

アステルは、もう一度ミナギに尋ねた。

「はい」

ミナギは真剣な目でアステルに答えた。

「・・・こっちへ来なさい」

アステルは、右の扉の方に向かった。

ミナギはそっと、後をついて行った。

中に入ると、薄暗いカーテンに囲まれた部屋の下に魔方陣が書いてあり、その上に椅子が置いてあった。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」11

「そこの椅子に座りなさい」

ミナギはゆっくりと、椅子に座った。

アステルは部屋の奥から魔法の杖を取り出して、ミナギの正面に立った。

「静かに目を閉じて、心の中で願いを唱えなさい」

「・・・・・・」

ミナギは目を閉じて、願いを唱えた。

どうか・・・

カイトを・・・

助けてください・・・・・・

アステルは、杖の先をミナギの心臓に向けた。

「この者の心からの願い事・・・自らの心の欠片と変えて・・・」

「・・・・・・」

「解き放て・・・願いの欠片よ・・・」

「・・・・・・」

ミナギは心から願いを続けた・・・

「・・・だめだ」

アステルは、静かに杖を下ろした。

「えっ?」

ミナギは、アステルの言葉に思わず声を出してしまった。

「残念だが・・・ミナギの願いを叶える事は出来ない・・・」

アステルは諦めて杖を元の位置に戻した。

「どうしてなんですか?・・・私の心が汚れているからですか?」

「そうではない・・・お前はもうすでに誰かの願いによって生きている」

「誰かの・・・願い?」

アステルの思いもしない言葉にミナギは、はっとなった・・・

あの時の・・・

男の子が持ってきてくれた・・・

白く光る薬が・・・・・・

「あ・・・・・・・・・」

ミナギは何も言葉が出てこなかった。

「もし、その願いの欠片を取り出してしまったら・・・願いを叶える前に、ミナギ自身が死んでしまう・・・」

「そ、そんな・・・」

「残念だが・・・」

ミナギは途方に暮れそうになった・・・

「・・・・・・」

誰かの・・・願い・・・?

「アステルさん」

「どうした?ミナギ・・・」

「この私の中にある願い・・・誰の願いか分かりますか?」

ミナギは、願いの欠片の埋まってる部分に右手を置きながらアステルに聞いた。

「知らないのか・・・?」

「忘れてしまって・・・思い出そうとすればする程、忘れてゆくようで・・・」

少し、アステルは考えて・・・

「分かった。こっちへ来なさい」

アステルは庭の方へ移動した。

そこは、さっきと正反対に明るく花壇や鳥達が沢山いた。

「あっ、フォーちゃん」

「フォー♪」

余程この場所が癒されるのか、フォーは嬉しそうな顔をして鳥と会話していた。

「そこの椅子に座りなさい」

「さっきの場所じゃないんですか?」

アステルは、庭を見渡してからミナギに話し始めた。

「忘れた記憶を呼び戻すには、心から落ち着かせる必要がある・・・ここは落ち着かないかな・・・?」

「い、いえ、心からほっとします」

ミナギは慌てて笑顔で答えた。

「では、そこの椅子に座って、目を閉じて肩の力を抜きなさい」

アステルにそう言われて、ミナギは椅子に座って静かに目を閉じた。

「・・・・・・」

アステルは、ミナギの心臓近くに杖を近付けた。

「この者の願いを込めた者・・・忘れ去りし記憶をこの者に甦らせよ」

杖から淡い光がそっと、ミナギを包んでいった・・・

「あっ・・・」

記憶が・・・・・・

・・・・・・――

町の真ん中にある噴水近くのベンチで小さい頃のミナギが座っていた。

その様子を客観的に、今のミナギの幻影が見ていた。

覚えている・・・

あの日の、私自身・・・

あの時の私は・・・もう・・・

「ねぇ・・・」

・・・誰なの?

「どうして、泣いてるの?」

小さい頃のミナギに同じ年位の男の子が話し掛けていた。

あの、男の子は・・・もしかして・・・

そうか・・・これは・・・

初めてあの男の子と出会った日だ・・・。

そっか・・・あの時・・・

私・・・泣いてたんだね・・・・・・。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」12

「お願い、私の事はほっといて」

小さい頃のミナギは冷たく男の子に言った。

「ううん、泣いてる女の子をほっとけないよ」

男の子は首を横に振って、小さい頃のミナギに話した。

「いいからほっといて・・・私、もうすぐ消えちゃう命だから・・・」

私・・・

「ここで待ってて、良い物持ってくるから」

男の子は小さい頃のミナギにそう言って、どこかに駆けてった。

「え・・・・・・」

小さい頃のミナギはただ、呆然としていた。

少しして、男の子が手に何かを持って戻ってきた。

「はい、ここのアイス凄くおいしいんだよ。これを食べて元気を出して」

男の子は、買ってきたアイスを小さい頃のミナギに手渡した。

「・・・ううっ!」

小さい頃のミナギは、男の子の差し出したアイスを手で払い除けた。

そのアイスは地面に落ちてしまった。

「あっ・・・」

「何で・・・私に構うの?私・・・死んじゃうんだよ?・・・もうすぐここからいなくなっちゃうんだよ?」

小さい頃のミナギは、顔を伏せたままで痛々しい声で男の子に言い放った。

私・・・酷い事、しちゃったね・・・

その様子を見ていた今のミナギは、見ていられなくなり目を反らしていた。

少しして、男の子が手に持っていたアイスを地面に落とし、小さい頃のミナギに話し始めた。

「君に、笑ってほしいんだ。君がいつまでも泣いてたら・・・周りの人まで悲しくなっちゃうよ・・・俺はただ、君の笑顔が見たい・・・ダメ・・・かな?」

「あっ・・・」

小さい頃のミナギが男の子の顔を見ると、涙を流しながら男の子が話していた。

こんな私でも・・・笑って、いいのかな・・・?

気が付けば、小さい頃のミナギは男の子の胸の中で泣いていた。

その様子を遠くから見ていた今のミナギの幻影も、あの頃を思い出して涙目になっていた。

それから・・・毎日、ここの噴水で小さい頃のミナギと男の子は待ち合わせをした。

2人で祭りを見たり、見た事の無い場所へ行ったりおいしいアイスや食べ物を食べたり・・・

本当・・・楽しかった・・・

男の子の顔は、ぼやけていて分からなかったが・・・あの頃の2人の飾りのない笑顔を見て、今のミナギも自然と笑顔になっていた。

でも・・・楽しい時は長くは保たなかった。

心からの笑顔になっていた明くる日の朝に、ミナギは高熱を出した。

「ミナギ、しっかりして!」

「えへへ・・・」

小さい頃のミナギは男の子に何かを言いたかったが、熱で喋る事が出来なかった。

・・・・・・・・・。

私、この時・・・

やっと、楽になれるって・・・

これで、お父さんとお母さんに会えるって・・・思って・・・

「ミナギ・・・ミナギ・・・」

男の子やエリ、お医者さんが見守る中、小さい頃のミナギは、男の子に何かを伝えたいようだった・・・

「何、ミナギ?」

男の子は泣きそうになりながら聞いたけど、熱で声を出すのが辛かった小さい頃のミナギは話す事が出来なかった。

君に・・・ありがとうって・・・言いたかったんだよ・・・

側で見ていた今のミナギの幻影は、男の子にそっと話し掛けた。

「・・・・・・・・・っ!」

少しして、男の子が急に席を立った。

「君を死なせない・・・君の笑顔が見たいから」

男の子は小さい頃のミナギにそう伝えて、病室を出て行った。

小さい頃のミナギは笑顔で見送る事しか出来なかった・・・。

あの時は・・・無理だよ、でも・・・ありがとう・・・

その気持ちだけで・・・って・・・

そして、辺りが暗くなり始め病室には小さい頃のミナギが1人で窓から景色を眺めていた。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」13

小さい頃の自分を見ていられなくなり、今のミナギの幻影も病室の廊下に出ていた。

廊下のソファーでエリが泣きそうな顔でミナギの事を祈っていた・・・。

お姉ちゃん・・・そんなに、私の事を・・・

少しして、エリは別の場所へと移動した。

お姉ちゃん・・・・・・

エリの淋しそうな背中を今のミナギの幻影は見送った。

少し後、反対側の廊下から男の子が手にビンを持って戻ってきた。

あっ・・・

男の子は今のミナギの幻影を通り抜けて、小さい頃のミナギのいる病室に入っていった。

その後を今のミナギも追った。

「えへ・・・」

「ほらミナギ、薬だよ。これを飲んで元気になって」

男の子の手には、白く光る一粒の薬が入った小さなビンがあった。

「凄く、綺麗・・・」

あの薬が・・・男の子の・・・私への願い・・・?

小さい頃のミナギが男の子から薬を受け取って飲むと、小さい頃のミナギの体を不思議な感覚が包んだ。

「何だか・・・体が楽だよ」

小さい頃のミナギから、少しずつ笑顔が戻ってきて、声も出せるようになっていた。

「良かった。もう今日はゆっくり寝てね。俺はミナギが眠ってから帰るから」

「うん、ありがと・・・」

男の子は小さい頃のミナギが眠るのを待ってから、静かに病室を後にした。

まるで、昨日の事のように、今のミナギから記憶が戻っていった。

でもミナギの中で忘れてしまってるのか、肝心の男の子の名前の所で声が濁ってしまい聞き取る事が出来なかった・・・。

それから・・・3日後、ミナギはエリから1週間後にエリの住む町へ行く事を伝えられた。

「あっ、ミナギ。元気になって良かった。今日はどこに・・・」

「・・・・・・」

「ミナギ?」

男の子が小さい頃のミナギの顔を見ると、涙目になっていた。

「うっ・・・うわああぁー・・・」

小さい頃のミナギは、男の子に抱きついて泣き出した。

私、この時・・・凄く、悲しかったんだよ・・・

君と、離れ離れになるのが・・・

今のミナギは、2人の様子を見ながらあの時の思いを辿っていた。

「・・・何があったの?ミナギ・・・落ち着いて話して」

「ぐすっ・・・私、後1週間でこの町と君にお別れしちゃうよ・・・」

「えっ・・・」

男の子は何て言っていいか分からずに、小さい頃のミナギの頭を撫でた。

「嫌だよ・・・君と離れ離れになるの・・・折角友達になれたのに・・・」

「・・・・・・」

今のミナギは、その2人の光景を俯きかけたままで胸を押さえながら見ていた。

「私、君ともっと色んな所へ行きたい・・・君ともっと遊びたいよ・・・」

「・・・一緒に来て!」

男の子は、小さい頃のミナギの手を引っ張って走り出した。

今のミナギも、後を追った。

・・・・・・。

「はぁ、はぁ・・・」

「はぁ・・・」

一体、どれだけ走ったのだろう・・・?

気が付けば、森の奥の大きな木の前まで来ていた。

ここは・・・?

今のミナギは、ここがどこなのかよく覚えていなかった。

「さっ、着いたよ」

「えっ・・・」

ここは昼間なのに少し薄暗い場所だった・・・辺りを見渡すと、蛍のような光がふわふわと浮かんで飛んでいた。

「わぁ・・・」

小さい頃のミナギは、今まで見た事の無い世界に言葉にならない気持ちになっていた。

「ちょうど良かったみたい・・・この光の風景は他の場所ではあまり見られないんだ・・・」

「綺麗・・・」

2人はしばらく、この幻想的な世界を見渡していた。

本当に、別世界に・・・行ったみたいだよ・・・

あの頃を思い出したのか、今のミナギの幻影もこの景色を目を潤ませながら見ていた。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」14

少しして、男の子は小さい頃のミナギの手を引っ張って大きな木の真ん中に2人が交互になるように立った。

「待ってるよ・・・君がこの町に戻ってくるのを」

「うん、きっと・・・この町に戻ってくるよ・・・君に会いに・・・」

「約束・・・だね」

「うん・・・」

2人はそっと、指きりを交わした。

光に願いを込めるように・・・

「また、遊ぼうね・・・ミナギ」

「うんっ、また遊ぼうね・・・・・・」

2人が約束を交わした直後に、弱い風が吹いて男の子の顔が見えた・・・

・・・カイト・・・

――・・・・・・

「えっ・・・?」

ミナギが気が付くと、辺り一面の花壇の風景が目に入った。

「気が付いたみたいだな・・・」

「ア、アステルさん・・・」

「少しは思い出したのかな・・・?」

アステルは、テーブルの反対側にある座椅子に腰掛けていた。

「・・・はい」

ミナギは静かに頷いた。

「では、ミナギへの願いは誰の心の欠片なのかな・・・?」

「・・・カイトだったよ」

・・・・・・。

「あっ・・・」

時を同じくして、家に戻っていたカイトの記憶も突然甦った。

「・・・・・・」

カイトは、机に置いていた包み紙を手にした。

「・・・・・・」

カイトは包みから黄色いリボンを取り出した。

「う・・・ううっ・・・」

カイトはリボンを握り締めながら、その場で座り込んだ。

「ごめん・・・ごめん、ミナギ、大切な約束・・・今まで忘れていて・・・」

カイトは甦った記憶を思い出し、今まで流れなかった涙が流れていた・・・。

ミナギへの願いを叶えたのは・・・

俺だったんだね、ミナギ・・・

本当に、ごめんね・・・・・・

・・・・・・・・・。

「カイトも忘れてました・・・あんなに大事な事を、私だけでなくカイトも忘れてるなんて・・・」

ミナギは、思い出した嬉しさと想像してなかった事に複雑な思いになっていた。

「恐らくは・・・後遺症」

「えっ?」

アステルは落ち着いた様子で、ミナギに話し始めた。

「カイトが3つ目の願い・・・つまりフォーを助ける為にかけた願いと引き替えに、最初にミナギを救った願いの記憶を無くしてしまった・・・」

「そんな事って・・・」

アステルは、話を続けた。

「カイトは優しい・・・だが、その優しさが自らの命を縮めてしまった・・・。私は何度も警告したのに・・・彼にもう少し自分を大事にする気持ちがあれば・・・」

アステルは話を終えて、そっと顔を上げた。

「でも・・・それがカイトだって思います。私・・・カイトがいなかったら、もうこの世界にはいなかったんだって思いますし・・・」

ミナギは少しだけ目を潤ませながらアステルに話した。

「ふふ、そうだな・・・」

アステルは鳥達を見ながら答えた。

「ミナギが記憶を戻したならきっと、カイトの記憶も戻っているはず・・・願いをかけた者とかけられた者の心が繋がってるはずだから・・・」

アステルは、そうミナギに話した。

「でも、嬉しいよ。大切な人がカイトだったなんて・・・」

ミナギは少し涙目で話した。

「でも・・・どうすればカイトを救えますか?・・・このままじゃカイトは・・・」

「フォーゥ・・・」

2人の話を聞いていたフォーが心配そうに近付いてきた。

「フォーちゃん・・・」

「・・・1つだけある。カイトを救う方法が」

アステルは少し重い口調で話した。

「えっ・・・?」

ミナギは驚いてアステルに聞き返した。

「今朝まで、本で調べてようやく見つかった・・・」

「どうすればいいんですか?」

ミナギはすがる思いでアステルに聞いた。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」15

「願いを叶えてもらった者が・・・願いを叶えた者に口伝いに願いを返す事・・・」

「それは・・・キスをするって事ですか?」

ミナギはその光景を思い浮かべて、少しだけ顔が真っ赤になった。

「形としてはそうだが、キスとは違う。人工呼吸・・・つまり命を吹き返す行為と同じ事をする事・・・1つの願いでも、カイトに返れば救う事が出来るだろう」

「カイトは助かるんですね・・・」

「フォー♪」

ミナギとフォーは少しだけほっとした。

「だが・・・」

アステルは一息置いて話を続けた。

「願いを返した者は・・・”願い”とゆう支えを失い・・・やがて、消滅する」

「え・・・」

ミナギはアステルの言葉に唖然とした。

「そっ、そんなのって・・・」

「今は、他に方法は無い・・・」

ミナギは言葉が出てこなかった。

「フォーゥ・・・」

そんなミナギを見て、フォーはミナギの頬に擦り寄った。

「フォーちゃん・・・」

「他の方法が見つかるまでは・・・この薬で何とか保たせるしかないが・・・」

アステルは、そう言ってミナギに薬を手渡した。

「もう・・・薬で誤魔化すのは限界だろう・・・後はお前達で決めるしかない・・・」

アステルは、ミナギとフォーに背中を向けて話した。

「もう・・・行きなさい」

「ありがとう・・・ございました」

ミナギとフォーは急ぎ足でカイトの家に向かった。

・・・・・・。

バサッ、バサッとフォーはゆっくりとカイトの家の前で降りた。

「待っていてフォーちゃん・・・」

ミナギは駆け足で玄関前に行った。

「カイトー、いるのー?」

ミナギは扉を叩きながらカイトの名前を呼んだが、反応が無かった。

「カイト・・・どこに行ったの?」

ミナギは途方に暮れた。

もしかしたら、入れ違いでアステルの所に戻っているのかもと思った・・・

かさっ。

「えっ?」

ミナギが戻ろうとした時、紙が落ちたような音がした。

「これは・・・」

ミナギは落ちた紙を広げてみた。

『ミナギへ

ミナギを救った大切な人が俺だったって事・・・今まで忘れていたよ。

ミナギには何度謝っても、許してもらえないかもしれないね。

本当に、ごめんね。

もう俺の体は保ちそうに無いから、せめて、あの時の約束した事だけは守るから。

もし、この手紙を読んだら来てほしいんだ。

約束の場所へ・・・

カイト』

紙切れの中身はミナギへの手紙だった。

「カイト・・・」

ミナギは手紙を読み終えて、涙を零していた。

「・・・っ!」

ミナギは駆け足でフォーに寄った。

「フォー?」

「フォーちゃんお願い、今すぐ私を連れて行って!カイトと約束した・・・場所へ」

ミナギは泣きながらフォーにお願いした。

「フォー!」

フォーはミナギを背中に乗せて飛び立った。

「カイト・・・」

「フォー!」

フォーはミナギの話した場所・・・町外れの大きな森に向かった。

お願い、どうか・・・間に合って・・・

・・・・・・・・・。

同じ頃、カイトは森の真ん中辺りを歩いていた。

「もう少しで・・・あの場所に」

カイトは、足元をふらつかせながら奥の方にある大きな木を目指していた。

カイトの手には約束の日に渡す為に買った黄色いリボンの入った包み紙を持っていた。

「はぁ・・・はぁ・・・」

少ししてカイトは胸が苦しくなってきたので、ポケットに入ってる薬を飲んだ。

「うっ!」

・・・飲んだ瞬間、嘔吐したくなる気持ちに襲われすぐに吐き出してしまった。

「ああぁ・・・」

カイトは辛くなって地面に座った。

「あはは、もう薬も効かないや・・・」

カイトは涙を落としながら、再び立ち上がって歩き始めた。

その時に持っていた薬はその場に捨てた。

「体・・・保つかなぁ・・・?」

カイトの視界は不安定になっていた。

・・・・・・。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」16

その頃、ミナギとフォーはようやく森の入り口まで辿り着いた。

「うっ・・・」

ミナギはすぐにフォーから降りて走って行った。

「カイトー!」

辺りはまだ昼間を過ぎたばかりなのに、薄暗く足場も少し不安定だった。

でも、今のミナギには怖いとゆう感覚は無かった。

ただ、カイトに早く・・・

「あっ・・・」

ふと、ミナギはビンのようなものが落ちてるのを見かけた。

「このビンは・・・」

ミナギは落ちていたビンを拾ってみると、カイトの持っていた薬と気が付いた。

「カイト・・・」

ミナギは薬のビンをポケットに入れて、再び走り始めた。

「ううっ・・・」

ミナギは涙を堪えながら大きな木を目指した。

・・・・・・――

「約束だよ・・・ミナギ」

「うん、約束だね・・・カイト・・・」

――・・・・・・

ミナギは走りながら、あの時の事を思い出していた。

「あっ・・・」

ミナギは途中で木の根に躓いて転んだ。

「痛いよ・・・」

足を擦ってしまい、膝から血が滲んできた。

「カイト・・・」

ミナギはすぐに起き上がったが、足を挫いてしまい走れなかった。

・・・・・・。

足を引きずりながら、ようやく大きな木の近くまで辿り着いた。

「・・・カイト」

ミナギは大きな木の下で、座り込んでいるカイトを見つけた。

「・・・」

光が空中を舞っている場所・・・あの時と同じ風景だった。

ミナギは足を引きずりながらカイトの前に立った。

「カイト・・・」

「・・・」

カイトは、首を下に向けたまま動かなかった。

「カイト・・・私、来たよ。あの時の約束を守りに・・・大分時が経っちゃったけど・・・」

「・・・・・・」

「お願いだから目を開けて、カイト・・・悪い冗談はやめて・・・」

ミナギはカイトに近付いて触れると、信じられない程の冷たさに襲われた。

「あっ!」

その反動で、カイトが持っていた包み紙が落ちた。

ミナギがその包み紙の中身を見ると、黄色いリボンと一枚の紙切れが入っていた。

その紙には「ごめんね」の一行だけが書かれてあった・・・

「ぐすっ・・・ううっ・・・」

ミナギは黄色いリボンを握り締めて、カイトの側に寄った。

カイトの体は触れる事が辛い程に体温が下がっていた・・・でも、ミナギはカイトを抱き寄せた。

「やだ・・・やだっ・・・やだよ・・・」

「・・・・・・」

「嫌だぁー!!」

ミナギは、動かないカイトを抱き寄せながら泣き叫んだ。

「私の、大切な人・・・置いて行かないで・・・」

ミナギの涙の粒が、カイトの手の上に落ちた。

「・・・・・・」

その時、ミナギは心の中で決心した。

「えへへ・・・本当は私、ここにいるはずのない人間・・・カイト・・・私、カイトに出会えて良かったよ・・・だから・・・」

ミナギはカイトの口に唇を近付けた。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」17

(だめぇー!)

「えっ?」

ミナギは不意に誰かに呼び止められたと思ったら、急に宙に舞ったような感覚に落ちた・・・・・・

どさっ。

「・・・痛いよ」

ミナギは気が付くと、カイトのいた場所から少し離れた場所に倒れていた。

ミナギは何が起きたのか分からずに起き上がってみると、目の前にフォーが立っていた。

「フォー!」

「フォーちゃん・・・?」

ミナギがフォーの顔を見ると、涙を浮かべてるように見えた。

「フォーちゃん・・・どうして?」

ミナギがフォーに近付こうとした時、フォーは空に向かって鳴き始めた。

「フォーゥ・・・フォー!」

フォーが鳴き続けると、段々とフォーの体が光り始めた。

「わっ!」

そのあまりの眩しさにミナギは目を伏せた。

・・・・・・。

やがて、光が弱くなって・・・

ミナギが顔を上げるとそこにはフォーの姿は無く、小さな女の子が立っていた。

「え・・・?」

その女の子は笑顔でミナギに話し掛けた。

「えへ・・・良かった。やっと、人の言葉が話せるよ・・・」

淡い青色の髪の毛・・・優しい目・・・

黄色いマフラー・・・

「フォーちゃん・・・なの?」

ミナギは、人間の女の子になったフォーの姿を見て驚きの余り呆然としていた。

「ごめんね、ミナギ・・・突き飛ばしたりして・・・」

人間の女の子になったフォーは、涙を浮かべながらミナギに話した。

「フォーちゃん・・・」

「でも・・・ミナギは消えちゃだめだよ・・・消えるのは・・・私1人でいいから」

「え・・・?」

ミナギにそう話して、フォーはカイトに近付いた。

「フォーちゃん?そんな、待って・・・いっ!?」

ミナギはフォーの側に行こうとしたが、足を挫いていて歩けなかった。

「カイト・・・私への願い・・・カイトに返すね」

フォーはカイトにそう言うと、カイトの唇を合わせた。

「あっ・・・」

ミナギはようやく歩けるようになった時、フォーの体が再び光り始めた。

「・・・っ!?」

あまりの眩しさに、ミナギはまた目を伏せた。

・・・・・・。

やがて、光が消えてミナギが顔を上げると目の前にはカイトだけ横たわっていてフォーの姿はどこにも無かった。

「フォーちゃんー・・・」

ミナギはフォーの名前を叫んだが、返事は返ってこなかった。

・・・・・・。

「・・・・・・う」

「あっ・・・」

「えっ・・・ミナギ?」

「カイトー!」

ミナギは気が付いたカイトを泣きながら抱き寄せた。

「ぐすっ・・・カイト・・・良かったよ・・・目を開けてくれて・・・」

「俺・・・生きてるのか・・・?」

カイトはまだ意識が曖昧でよく状況が分かっていなかった。

「カイト・・・助かったんだよ・・・フォーちゃんのおかげで」

「フォーが・・・」

光がふわふわと浮かんでいる風景を見ながらカイトは話した。

「ミナギ・・・フォーは?」

カイトが辺りを見渡すと、フォーの姿が無かった。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」18

「・・・・・・」

「ミナギ?」

カイトにそう聞かれてミナギは、涙目で話し始めた。

「カイト・・・落ち着いて聞いてほしいの・・・」

「ミナギ・・・?」

・・・・・・。

「・・・そうなんだ・・・フォーが・・・」

「・・・うん」

一通り話を終えて、カイトとミナギは呆然としていた。

「フォーにはもう・・・会えないのかな・・・?」

「私、もう・・・何が何だか・・・」

2人は一度に力が抜けたかのように動く気力を無くしていた。

「もう一度だけ・・・会えるなら・・・」

カイトは叶わぬ願いと分かっていた。

フォーは俺の為に・・・

自分の中の願いを、俺の中に返して・・・

そして、フォーは・・・消えてしまった・・・

空を見ながら、カイトは行き場の無い思いを募らせた。

「・・・ォーゥ・・・」

「えっ?」

カイトはふと、フォーの泣き声が聞こえたような気がした。

「どうしたの?カイト・・・」

「今、フォーの声がしたような・・・」

カイトにそう言われてミナギは耳をすませてみたが、何も聞こえなかった。

「私には何も聞こえないけど・・・」

気のせいかとカイトは思った・・・

「フォーゥ・・・」

今度ははっきりと聞こえた、その時にミナギも気が付いたようだった。

「カイト・・・今、私にもフォーちゃんの声が・・・」

「うん、行ってみよう」

「うん・・・あっ!」

「どうしたの?ミナギ」

ミナギはついさっきまで、自分が足を挫いていた事を忘れていた。

その痛さで思わず足を押さえた。

「大丈夫?ミナギ」

「大丈夫・・・ちょっと足が痛いだけだから・・・」

ミナギはそう言って歩こうとしたが、歩く事さえ辛そうな感じだった。

「無理しないで・・・ミナギ」

「あっ・・・」

カイトはそう言って、ミナギをおんぶした。

「痛くない?ミナギ・・・」

「え・・・う、うん・・・」

ミナギは少しだけ恥ずかしかったが、温かくなったカイトの体温に少し安心していた。

・・・・・・。

「温かいね・・・カイトの体」

「俺はちょっと熱いかな・・・」

「今までが冷たかったんだよ・・・」

カイトは少し照れながら、フォーの声がする方へ歩いていった。

・・・・・・。

少し歩いて、霧が濃くなってきた辺りまで辿り着いた。

「フォーゥ・・・」

フォーの声がはっきりと聞こえてきた。

「前が・・・見えないや」

この先にフォーがいるのは間違いなかったが・・・

まるで、フォーの姿を隠すかのように霧が出ていた。

「ミナギ・・・しっかり掴まってて」

「うん・・・」

カイトは霧の中へ入ろうとした時、一瞬だけ暗闇に包まれた・・・

「あれ・・・?」

気が付くと、さっき立っていた場所に戻っていた。

カイトはもう一度、真っ直ぐに歩いて霧の中に入ったがまた同じ場所に戻っていた。

「何で・・・入れないんだ?」

フォーの声が悲しく霧の中で響いていた。

「フォー!俺達はここにいるよー!」

「フォーちゃん!」

カイトとミナギがフォーの名前を呼んでも、姿を見せる事は無かった。

まるで・・・入る者を拒むかのように、目の前の霧が濃くなっていった。

「どうしたらいいんだよ・・・?」

カイトは途方に暮れた。

「・・・カイト」

その時、背中からミナギが話してきた。

「えっ?どうしたのミナギ・・・」

「私、ここで待ってるから・・・カイト、行って来て」

「それは出来ないよ・・・こんな所にミナギを置いて行くなんて」

カイトはそうミナギに言うと、ミナギは首を横に振った。

「大丈夫だよ、カイトは必ず戻ってくるって信じてるから。だって、私達の心は繋がっているんだもの」

ミナギは、はっきりとした口調でカイトに話した。

「ミナギ・・・」

「それに、今のフォーちゃんの心を繋ぎ止められるのはカイトだけだって思うから」

ミナギは笑顔で、でもどこか背中を押してくれるような強さを持った声でカイトに話した。

「・・・分かったよ、ミナギはここで待ってて。必ず戻ってくるから・・・」

カイトは、ミナギをそっと腰掛けられそうな場所に下ろしてから霧の中に入った。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」19

・・・・・・。

「フォー!」

どこまで行っても真っ白くて濃い霧だけが辺りを包んでいた。

「フォー!いたら返事してくれー!」

どれくらい歩いたのだろうか・・・?

霧の中に、うっすらと人影のようなものが映った。

「誰かそこにいるの?」

「・・・カイト?」

どこかで聞いた事のある声・・・ミナギからフォーは人間の女の子になって助けてくれたと話を聞いていたカイトはもしかしたらと思い、名前を呼んだ。

「・・・フォー、なのか?」

「カイト・・・なんだね?」

「待ってて、今行くから」

カイトは人影の見える方へ走って行った。

やがて、ミナギより少しだけ背丈の小さい女の子の姿がはっきりと見えた。

「君は・・・フォーなんだね?」

「カイト・・・来てくれたの?」

フォーは、カイトの声が近くにある事が分かって笑顔になった。

「良かった・・・もう会えないんじゃないかって・・・」

「カイト・・・どこにいるの?・・・見えないよ」

フォーは声のする方に手を伸ばしてるが、まるで視点が合っていなかった。

「フォーお前、まさか目が・・・」

「えへへ・・・そうみたい」

フォーは涙を浮かべながらカイトに話した。

「フォー、俺が近付くからじっとしてて」

「うん・・・」

カイトは、ゆっくりフォーに近付いてフォーの肩に触れた。

「えへ、カイト・・・」

フォーはゆっくりと、カイトに身を委ねた。

「フォー、俺を助ける為に・・・ごめんね」

カイトはそうフォーに言うと、フォーは首を横に振った。

「私・・・嬉しかったんだよ。あの時、カイトに助けてもらった時から・・・いつか恩返しが出来たらって・・・こうしてカイトが助かって嬉しいんだよ・・・私」

フォーは視点の合わない目でカイトを見ながら話した。

「フォーだったんだよね?・・・夜にフォーと話して俺が眠った時に「大丈夫だよ」って言ってくれたのは・・・それに、俺が夢の中で誰かに連れて行かれそうになった時も必死に呼び止めてくれたのも・・・フォーだったんだよね?」

「うん・・・言葉が話せなくてあんな形でしかカイトと話出来なかったから・・・」

「ありがと・・・フォー」

カイトはフォーの頭を優しく撫でた。

「えへへ・・・カイトの手・・・優しいね」

「フォー、後どれくらいここにいられる?」

「・・・分からないよ。私はもっとカイトの側にいたいよ・・・」

フォーはそっと、カイトの背中に手を回した。

「私、夢だったんだよ・・・人間になって沢山おしゃべりしたいって・・・カイト、私どんな人間に見えるかな?」

フォーは、少し涙交じりの声で話した。

「とても・・・かわいいよ。背はミナギよりも少し小さいけれどその優しい目・・・とても綺麗な髪だよ」

「ありがと・・・カイト」

出来る事なら・・・いつまでもこうしていたい・・・

でも・・・いつまでもフォーがここにいられないのは分かってるから・・・

だって、もう・・・

消えてしまったはずの・・・命なのだから・・・

こうして、フォーと話が出来た・・・それだけで・・・

「あっ・・・」

「どうした、フォー?」

「もう・・・私、ダメみたい・・・」

フォーは、悲しい声でカイトに話した。

「行ってしまうのか?」

「うん・・・こうしてカイトと話が出来て幸せだよ・・・」

カイトは、フォーの体が段々と軽くなってゆくのが分かった。

もうすぐ、消える・・・

「フォー、ごめんな・・・お前を助けるどころかこんな形で別れる事になってしまって・・・」

「・・・もう、そんな事言わないで、カイト。私、カイトのおかげでカイトのお母さんやミナギにも会えたから。もう会えなくなるのは淋しいけれど・・・」

「フォー!」

カイトはフォーを強く抱きしめた。

まるで、小さな子供が親と離れたくなくて必死に抱きつくように・・・

「カイト・・・少し痛いよ」

「離したらフォーが消えてしまいそうだから・・・」

「えへへ・・・」

フォーは少し恥ずかしそうにカイトの胸に顔を寄せた。

「・・・ねぇカイト、私のお願い聞いて」

「どんな願いなの?こんな俺に出来る事なら・・・」

「私と・・・キスして」

フォーは、頬を少し赤く染めて言った。

「えっ!?」

フォーの言葉に、カイトは少し焦った。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」20

「えへっ、私の最後のお願いだよ・・・」

「・・・・・・」

カイトはゆっくりと自分とフォーの唇を合わせた。

カイトはとても恥ずかしい気持ちになっていたが、フォーの最後の願い・・・叶えてあげたかった。

「えへっ・・・」

フォーはとても嬉しそうな顔をした。

「・・・・・・」

カイトはどこか言葉に困っていた。

「私、忘れない。空の上でカイト達を見ているから」

「俺も・・・フォーがいた事を心の奥に刻んでおくよ」

「・・・・・・」

フォーの体が静かに消えてゆく・・・

「フォー!」

「ありがと、私の好きな・・・カイト」

「あっ・・・」

白い霧に混じってゆくように・・・

フォーは俺の前から、姿を消した・・・

・・・・・・。

「あっ・・・」

カイトを待っていたミナギの目の前の霧が晴れてゆき、ぽつんとカイトが姿を現した。

「カイト・・・」

「・・・・・・フォー・・・」

カイトは空を見上げていた。

フォーが行ってしまった空を・・・

「カイト・・・」

ミナギはそんなカイトを見て、今はそっとしておこうと思った。

・・・・・・。

それからカイトは、ミナギをおんぶして笑いながら色々な話をした。

今だけは、悲しい気持ち・・・消えていて・・・

そう、心の中で願いながら・・・

・・・・・・。

「ミナギ、足は本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。さっきより大分痛みは引いたから」

2人は、ミナギの家まで辿り着いていた。

辺りはもうすっかり日が沈みかけようとしてる所だった・・・

「うん、じゃっ、明日学校で・・・」

「あっ、待って・・・」

ミナギに引き止められたカイトは、わっと振り向いた。

「え?どうしたのミナギ・・・」

「色々あって、言うのを忘れてたよ・・・」

ミナギはそう言って、ポケットからリボンを取り出した。

「あっ・・・」

「カイト、ありがとね。似合うかどうか分からないけど今度、着けてくるね」

ミナギは、カイトから受け取った黄色いリボンを両手で大事そうに持った。

「大分前に買ったものだったから、ちょっとだけ痛んでるかもしれないけど・・・」

「ううん、凄く嬉しいよ」

互いに照れながら、2人は別れた。

・・・・・・。

カイトは家に戻り、自分の部屋のベッドに腰掛けた。

「・・・・・・」

カイトは今までの事を振り返った・・・

「・・・うっ・・・」

カイトは目の上にこみ上げてくるものを我慢していたが、手の上に落ちたものを見た瞬間、カイトは泣いていた。

「うっ・・・ううっ・・・わぁー!」

今まで抑えていたものが一度に零れるように・・・。

あれからカイトは呆れるほどに・・・もう涙は出ないんじゃないかとゆうくらいに泣き叫んだ。

すっかり泣き疲れて眠ったのはそれから1時間後だった。

・・・・・・・・・。

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#9「冬始~ふゆのはじまり~」21

「ふぁ~・・・」

翌朝、軽く朝食を食べて学校へ向かった。

今朝、鏡を見たら自分の顔かと疑う位に目の辺りが腫れていたが、何とか持ち直した・・・はずだとカイトは無理矢理言い聞かせた。

「カイトー」

後ろから名前を呼ばれて振り向くと、シンジがいつもの元気な声でカイトに駆け寄った。

「やっシンジ、この前はごめん・・・」

「いや、お前がそうやって元気になって出てきただけで・・・」

シンジがそう言いかけて、話が止まった。

「カイト・・・お前目が凄い腫れてるぞ・・・大丈夫か?」

「はは・・・ちょっとね・・・」

カイトはそそくさと先を急いだ。

「あっ、おいっ待てって・・・」

「急がないと遅刻するぞー、シンジ」

「まだ大丈夫だっての・・・待てって・・・」

カイトは逃げるように学校へ向かった。

・・・・・・。

カイトにとって三日ぶりの学校は、前よりも楽しいものになっていた。

生きてる事がこんなにも楽しいと素直に思えた。

今までの胸の苦しみを隠し通す辛さからやっと、解放されたんだとカイトは心から思った。

・・・・・・・・・。

キーン、コーン・・・

お昼の時間になり、皆それぞれの場所へ向かった。

「カイトー、学食へ行くか?」

「ああ、今行くから・・・」

カイトとシンジは学食へ向かった。

シンジからは、あの時に何があったのかきっちりと話してくれと言われてカイトは苦笑いしながら答えた。

学食は相変わらずの賑わいだった。

カイトはランチを食べながら、休んだ間の事の話をシンジに話していた。

「まぁ、それで・・・」

「そっか・・・」

少しして・・・

「カイトー」

話してる後ろからミナギがカイトを呼んだ。

「や、ミナギ」

「えへへ♪」

2人のやり取りをみてシンジはまた、にやけ笑いをした。

「ほほぅ・・・相変わらず仲が良いですな・・・」

いつものようにシンジは2人をからかった。

「えへ、そう見える?」

そうミナギは言って、カイトの腕に抱きついた。

「わっ!ミ、ミナギ?」

予想してなかったミナギの行動にカイトは少しびっくりした。

「お前たち・・・あの時に何があったんだよ?」

今までと全然違う、ミナギの積極的な行動にシンジも驚いていた。

「えへ、内緒♪」

ミナギはそう言いながら、カイトの腕を引っ張った。

「カイト、私と一緒に行こう、ね♪」

「ちょ、ちょっと、ミナギ、行くってどこへ・・・わっ」

ミナギに引っ張られるように、カイトは席を立った。

「ちょっと、まだお昼終わってないって・・・」

カイトは、ミナギとさっきまでシンジと座っていた席を交互に見ながら学食を後にした。

そのやり取りに周りが少しざわついていた・・・

その様子をシンジはただ呆然と見てるしかなかった。

#9「冬始~ふゆのはじまり~」end.

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epilogue「卒業~そつぎょう~」1

やがて・・・

季節は巡り、春を迎えた。

ミナギは2年生、カイトは3年生になり、大学の受験を受けて何とか合格の通知をもらった。

4月から通う大学はここから少しだけ遠かった。

「ふぅー・・・」

カイトは草の上に仰向けになった。

「・・・・・・」

カイトは空を見上げた。

そして、空を見るたびに思い出していた。

あの・・・

「カイト」

「わっ!」

ミナギが急に顔を覗かせて、カイトは思わずびっくりした。

「何だよミナギ・・・驚かすなよ・・・」

「くすす、カイトがぼーっとしてるからだよ」

ミナギは悪戯っぽく笑った。

「全く・・・」

カイトは、半ば呆れ気味に返した。

「卒業おめでと、カイト」

「ありがと、ミナギ」

「何か、淋しそうだね」

ミナギはカイトの横に座った。

「まぁね、初めてこの町から離れるからかな・・・?」

「あっ、そっか・・・カイトの通う大学ここじゃないんだね・・・」

ミナギは少し淋しくなった。

「医者になるのが夢だから・・・受けるなら医療の事がちゃんと学べる大学にしようって・・・」

カイトはそうミナギに話した。

「でも凄いよカイト、本当にやりたい事に少しずつ近付いてるんだもん」

「まだまだなんだけどね・・・」

カイトは遠慮がちに言った。

「私は・・・どうしようかな?」

カイトの話を聞いて、ミナギは何がやりたいのか改めて考えてみた。

「まだ、何がやりたいのか決まってないんだ・・・」

「うん・・・」

「ミナギが一番興味ある事をやればいいんじゃないかな・・・?」

カイトにそう言われて、ミナギは考えてみた。

「私の興味ある事は・・・」

ミナギは少し考えて・・・

「お料理・・・かな?おいしい料理を作って皆を喜ばせたいな・・・」

ミナギは笑顔でカイトに答えた。

「いいと思うよ。まっ、ただ・・・もう少し上手に作れるようにならないと・・・」

「あー、カイトひっどーい・・・これでも頑張ってるよ、私は」

カイトの言葉にミナギは少し拗ねていた。

「そうだね、家で母さんと懸命に料理の勉強を頑張ってるもんな・・・調味料を間違える事をあまりしなければ・・・」

カイトはこの前の事をネタにした。

「あれは・・・その・・・うー・・・意地悪・・・」

ミナギはいじけて顔を伏せた。

「はは、ごめんミナギ」

カイトは、ミナギを宥めるようにそっと頭を撫でた。

「えへへ・・・」

「ミナギも頑張れば出来るよ、きっと」

「うん、頑張るね私!」

ミナギの心からの笑顔を見てカイトは安心した。

「もう、カイトとはあまり会えなくなっちゃうね・・・」

ミナギは、カイトに淋しそうに言った。

「なるべく週末には帰るようにするよ。俺もミナギに会えないのは淋しいし・・・まぁ遠いっても駅から5駅位だけどね」

「私も、カイトの所へ遊びに行くね」

「うん、待ってるよ」

・・・風が心地よく草木を揺らしていた。

2人はその風の心地よさに身を委ねていた。

「思い出すなぁ・・・あの原っぱでミナギに会った時の事・・・」

「私が大切な人に会いたいって空に願いをかけていた時だね・・・」

カイトとミナギは、丘からあの草原を見ていた。

「うん、あの時は初めて会ったはずなのに初めてじゃないって、そんな気がしてたんだ・・・まぁ、ミナギのおかげで初めて会った時の記憶を戻したけどね」

カイトは温もりを取り戻した胸に手を当てながら話した。

「うん・・・私、空に願いをかけて良かったって思うよ。こうして再び会う事が出来たんだし」

ミナギはカイトの左手を握った。

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epilogue「卒業~そつぎょう~」2

この町には沢山の思い出が・・・

ハルやシンジ達との出会い・・・

ミナギと出会い・・・フォーと出会い・・・

辛かった事も、悲しい事も、楽しかった事も・・・

みんな、この町に一杯詰まってる。

きっと、これからも・・・

「カイト・・・」

ミナギにそう言われてカイトが振り向くと・・・

「あっ・・・」

「・・・・・・」

ミナギの突然のキスにカイトは言葉を無くした。

「ミナギ・・・えっと・・・」

「えへへ・・・この前のお返し♪」

ミナギは悪戯っぽくカイトに微笑んだ。

「あ・・・・・・」

この前の事・・・

大学の合格通知が来たその日の週末にカイトがミナギを遊びに誘った時・・・つい・・・

「あ、っと・・・・・・」

カイトはその時の事を思い出して、顔が赤くなりそうだった。

「くす、カイト、顔が真っ赤だよ・・・」

ミナギにそう言われてカイトは「ほっとけ」と、笑って誤魔化した。

少し、空を見上げて・・・

「フォーは見ているかなぁ・・・?」

カイトは空を見上げながらミナギに話した。

「うん、きっと見てるよ」

ミナギも笑顔で話した。

「フォーが消えた日、信じられない位に涙が止まらなくなって・・・男のくせにみっともないって思ってても・・・」

カイトは、あの時の事を思い返し、少しだけ顔を伏せた。

「それはカイトがとてもフォーちゃんの事を大事に思っていたからだよ・・・男だからって泣いちゃいけない事はないよ」

「俺はフォーを助けるどころかあんな形で・・・フォーに余計辛い思いをさせた・・・」

カイトは悲しげに話した。

「カイト・・・フォーちゃんと別れた時・・・笑顔だったよね?」

カイトは静かに頷いた。

「フォーちゃんはとても幸せだったと思うよ。そうじゃなかったら、カイトの為に願いを返す事はしなかったと思うし・・・」

「・・・・・・」

ミナギの話に、カイトは何も言わずに聞いていた。

「それに、私がカイトに願いを返そうとした時にフォーちゃんに止められて・・・フォーちゃんに言われたの・・・ミナギは消えちゃダメだよって・・・」

「えっ!?」

ミナギのその話に、カイトは思わず驚いた。

「私の為にカイトが代わりに消えてしまうのが嫌だった・・・大切な人がカイトだって分かっただけでも私は嬉しかったから・・・」

ミナギは、その時の思いをカイトに打ち明けた。

「ミナギ・・・ごめんな、俺がやった事でミナギにも苦しい思いをさせてしまって・・・」

カイトは、ただミナギに謝った。

「誰もカイトのせいなんて思ってないよ。皆、そのカイトの優しさに救われたから・・・私だって・・・本当はもうここにはいないはずの人間だったはずだし・・・」

ミナギは涙を溜めながらカイトに話した。

「ミナギ、俺・・・」

「ただ、これだけは約束してほしいよ・・・命と引き替えにしてまで他の生き物や人達を助けたりしないでって・・・私、カイトがいなくなったら・・・」

ミナギは話し終えると、涙を誤魔化すようにカイトの左腕に顔を寄せた。

「分かったよ・・・もう、無理してまで命を救ったりはしないよ」

カイトはそっと、ミナギと指切りを交わした。

あの時の約束のように・・・

・・・・・・。

カイトとミナギは、自然と口付けを交わしていた。

これで3度目のキス・・・

でも、恥ずかしそうに交わした初めてのキスよりも体の中にまで温もりが伝うようだった。

フォーのいる空に、約束するよ・・・

俺はミナギに・・・悲しい思いはさせないと・・・

1つの・・・願いを乗せて・・・・・・。

「灰色の願い事~lost color of wish~」fin.

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「灰色の願い事~lost color of wish~」あとがき

本作品は最初、携帯用ブログサイト「Manblog」(05年11月にサイトオープン)にて、

05年11月~06年03月まで連載していたものを加筆、修正を加えて再編成したものです。

ちなみに元記事は08年9月26日の閉鎖で全て消えてしまいましたが・・・。

携帯ブログで書いていた当時は、1つの記事の文字数制限(500文字まで)や、当時の表現力の弱さもあって中々恥ずかしい部分もあったのですが・・・

改めて原稿に書き下ろしてみて、当時では表現できなかったハルやシンジのかけがえの無いやり取りのシーンも増加できて良かったって思ってます。

最初は、頭の中の妄想だけで作っていた物語が・・・

こうして1つの作品として表現できたとゆうだけで気持ちはいっぱいです。

いつになるかは分かりませんが、この「灰色の願い事」に関連したもう1つの長編モノも1つの形として生み出したいと思ってます。

その時まで。また><

05‘11~06‘03 (初出 Manblog

08‘07~08‘11 (改版 by Timo.(ティモ)

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